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プーチン大統領の懸念 日本は米兵器配備反対を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 19日、モスクワで行われた年末恒例の長時間記者会見の席上、ロシアのプーチン大統領が、北方領土交渉に関するロシアの懸念について述べた。

 〈プーチン氏は、米ロ間の中距離戦略核(INF)廃棄条約が8月に失効した後、同条約が制限していたミサイルの日本配備を米国と日本が協議しているとして懸念を示した。また「(北方四島)に将来、米軍の新たな攻撃兵器が配備されないという保証はない」と述べた。/その上で、日本とは現在、率直な協議を続けており、双方が受け入れ可能な解決策を見いだすことは可能だと指摘した〉(20日付本紙)。

 8月2日に、米ロ間の中距離戦略核(INF)全廃条約が失効した。現時点で、米国もロシアも核弾頭を搭載することが可能な地上発射型の中距離弾道ミサイルを自由に造ることができる。米国は、INF全廃条約の当事国でなく、中距離弾道ミサイルを保有する中国に対する抑止力を確保しようとしている。その場合、地理的条件から日本に中距離弾道ミサイルが配備される可能性がある。

 その関連で10月3日に本紙は、米国が沖縄を含む日本に中距離弾頭ミサイルを配備する計画があるというスクープを1面トップで報じた。

 〈中距離核戦力(INF)廃棄条約が8月2日に破棄されたことで、条約が製造を禁じていた中距離弾道ミサイルの新型基を、米国が今後2年以内に沖縄はじめ北海道を含む日本本土に大量配備する計画があることが2日までに分かった。琉球新報の取材に対し、ロシア大統領府関係者が水面下の情報交換で米政府関係者から伝えられたことを明らかにした。その情報によると、米国は2020年末から21年にかけての配備を目指し日本側と協議する。配備されれば基地機能が一層強化され、核戦争に巻き込まれる恐れが高まり、沖縄の基地負担が飛躍的に増す〉という内容だ。

 この情報源はロシア大統領府だった。現時点で日米両国政府は、地上発射型の中距離弾道ミサイルの日本配備について協議しているという情報を否定している。

 しかし、プーチン氏は「(北方四島)に将来、米軍の新たな攻撃兵器が配備されないという保証はない」と懸念を表明した。SVR(ロシア対外諜報庁)やGRU(ロシア軍参謀本部諜報総局)が、プーチン大統領に「米国が日本に中距離弾道ミサイルを配備する計画があるという確実な情報を得た」と報告したのであろう。

 もっともロシアの懸念は返還後の北方領土に中距離弾道ミサイルが配備されることではない。近未来に、沖縄を含む日本に米国の中距離弾道ミサイルが配備されることがないという保証を求めている。この保証をしない限り北方領土交渉は前進しないと思う。

 沖縄に米軍の中距離弾道ミサイルを配備しないという姿勢を政府が明確にすることが沖縄の利益にかなうし、北方領土交渉を前進させる梃子(てこ)になると思う。

(作家・元外務省主任分析官)