観光客数1000万人達成も、業績は厳しい? 経済記者が振り返る2019年の沖縄経済(上)観光・農業


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 入域観光客数が1千万人を突破するなど沖縄経済は2019年も好調を続けた。沖縄都市モノレールの浦添延長もあった。現場で取材を続ける経済記者が今年1年を振り返った。

座談会参加者
 平安太一(経済キャップ)、沖田有吾(金融・エネルギー)、外間愛也(商工労働・IT担当)、中村優希(観光担当)、石井恵理菜(農林水産担当)

国際線と国内線のターミナルを連結した新旅客ターミナルが3月に完成した那覇空港。来年3月には沖合の第2滑走路の供用開始が予定される=3月18日、那覇空港

 平安 2019年の沖縄経済は大きなニュースが多かった。特に入域観光客が1千万人を超えた節目の年になった。当初、999万9千人と発表されていた18年度(18年4月~19年3月)の観光客数が11月に上方修正される形で、1千万人を突破した。

 中村 沖縄観光は勢いが続いているといわれるけど、実は取材先では業績が厳しいという声の方が多い。日韓関係悪化による韓国人客の減少に加え、競争が激しくなっている。ホテル業界全体の稼働率は5~8%下がっていて、関係者は「約40年ホテル業界にいるけど今年は特にひどかった」と振り返っていた。大型ホテルやアパート型ホテルの相次ぐ建設で、供給過多になってきているのかもしれない。

 沖田 観光客数も増え続けるだけではオーバーツーリズムが課題となる。住民がそっぽを向いてしまうと持続的な観光振興はできない。地域との融和を図りながら受け入れを進めることが求められる。

 中村 良好な観光地づくりの点では、連載「熱島」の取材で夏に石垣島に行ったが、安全を確保できないマリンレジャー業者の乱立が問題になっていた。ダイビング船のハシゴに手を挟んで骨折した上に、業者に放置された女性の話を書いた。その後、女性が業者に保険対応について問い合わせると「これ以上連絡すると訴える」と言われ、連絡がつかなくなったという。死亡事故も増えていて、悪質な業者の存在に現場は危機感が強かった。条例を作るなど行政の協力が必要だ。

開業日前日の試験走行で浦添延長区間を走る沖縄都市モノレールの車両=9月30日、浦添市前田

 外間 ゆいレールの浦添延長区間が10月に開通したことも今年を象徴するニュースだ。来年は那覇空港の第2滑走路の供用開始があり、観光客数がさらに増加するはずだ。現在は直行便がない海外路線が就航することも期待できる。

 沖田 モノレール延長は喜ばしいけれど車内の混雑解消が必要だ。3両化や増便を進めないと観光客から敬遠される。

 石井 農業では、外来害虫ガのツマジロクサヨトウが沖縄に飛来した。今のところ沖縄への侵入はないとはいえ、豚コレラ、アフリカ豚コレラの感染が国内、アジアでまん延し、沖縄でもいつ発生してもおかしくないと気が気でならなかった。病害虫の広がりは世界的な温暖化も影響しており、今後も油断を許さない。

稲やサトウキビ、トウモロコシなどを食い荒らす害虫、ツマジロクサヨトウの幼虫。7月に国内で初めて確認されて以降、県内でも確認される範囲が広がった(植物防疫所ホームページより)

 平安 沖縄はこれから海外と人の行き来がますます活発になり、侵入のリスクは高まる。発生すれば農業に与える被害は甚大だ。危機管理の重要性が問われている。

 石井 行政機関は対策会議で初動防疫の対応を繰り返し確認しているが、末端の現場農家にどこまで届いているか疑問に思う場面もあった。行政の補助に限界を感じ、独自で対策に取り組む農家も取材で見られた。だが小規模農家だと資金面などで独自の対応には限界がある。危機管理マニュアルの整備など、支援の強化が必要だと感じる。

 沖田 日銀の大規模緩和によって全国で金融機関の経営が厳しくなり、地銀の統合や再編が進んでいる。県内地銀はここ数年の好況を受けて比較的恵まれた経営環境だったといえるが、今後景気が減速するようだと各行の収益力の真価が問われることになる。