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ゴーン被告の逃亡 日本出国の経緯、検証を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 日本の司法の歴史で前代未聞の不祥事が起きた。保釈中の日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告(65)が、レバノンに逃亡した。

 〈金融商品取引法違反と会社法違反の罪で起訴された前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告(65)は米国時間の30日(日本時間31日)、米国の代理人を通じて声明を発表し「私は今レバノンにいる」と明らかにした。海外渡航禁止の条件で保釈されていながら無断出国、逃亡した。2020年4月に始まる予定だった公判の見通しは立たなくなった。/ゴーン被告は声明で「有罪が前提で、基本的人権が否定されている」と日本の司法制度を批判した。国内外から「人質司法」と指摘された保釈の在り方にも影響を与えそうだ。/法務省や検察庁などは、出入国管理の根幹を揺るがす事態とみて出国の経緯を調べる〉(19年12月31日本紙電子版)。

 さまざまな報道を総合すると、ゴーン被告は、トルコの航空会社が運航するビジネスジェット機で昨年12月29日午後11時頃に関西空港を発(た)ち、同30日朝にイスタンブールのアタチュルク空港に到着した。その30分後、同じ航空会社の小型ジェット機に乗り換えてレバノンのベイルートへ飛び立ったようだ。レバノン政府は、ゴーン被告が合法的に入国したと発表している。

 日本とレバノンは犯罪人引渡条約を締結していない。レバノンの法律では、自国民を外国に引き渡してはならないと定められている。ゴーン被告は、フランス、ブラジル、レバノンの三重国籍者である。当然、レバノン国民ということになる。日本政府はレバノン政府にゴーン被告の引き渡しを要求するであろうが、レバノン政府がそれに応じる可能性は皆無だ。

 日本の刑事裁判の一審は、一部の軽微な犯罪を除いて、被告人が出席しないと開廷できない。ゴーン被告の場合、複数の特別背任容疑などで起訴されているので、被告人の出席が必須になる。ゴーン被告が日本に帰国しない限り裁判はできない。

 東京地方裁判所は12月31日夜、ゴーン被告の保釈を取り消した。保釈保証金15億円は没収されることになる。もっともゴーン被告が手記を書けば、世界的ベストセラーになるのは確実で、15億円以上の印税を得ると思う。その後、映画化もされると思うので、今回の逃亡劇によってゴーン被告は経済的にも大きな利益を得るであろう。

 深刻なのは、日本の出入国管理が簡単に突破されたことだ。一部の民間警備保障会社(軍事請負会社)は、ヨーロッパの中堅国レベルのインテリジェンス能力を持っている。これらの企業が関与しなくてはゴーン被告の逃亡はできなかった。インテリジェンスの観点からも今回の事件を綿密に検証する必要がある。

(作家・元外務省主任分析官)