【識者評論】沖縄一括交付金の課題とは? 宮城和宏沖国大教授


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宮城和宏(沖国大教授)

 今回のアンケート結果から、一括交付金が使い勝手の良い制度であり、特にソフトの一括交付金に関しては各市町村が教育・福祉分野などで有効利用している様子がうかがえる。一方、同制度にはさまざまな課題もあることにより、その点を踏まえた上で今後の制度の方向性について議論していく必要があるだろう。

 第一に、一括交付金の予算はルールではなく政府の裁量、さじ加減で決定されるため、制度本来の趣旨から乖離(かいり)し、一括交付金への依存度が高まれば高まるほど、県と市町村を分断するための政治的道具として利用されやすい。辺野古新基地建設の対立から、翁長前県政以降続く一括交付金の減額が市町村と県との間にきしみをもたらしつつあることは周知の事実である。

 第二に、高率補助のソフトの一括交付金が教育・福祉分野に支出できるとはいっても、既存の高率補助ではない生活保護などの制度に流用できるわけではない。また就学援助制度のうち各市町村教育委員会が認定し、単独で実施する準要保護者に対する援助にも一括交付金は使用できないため、市町村は一般財源を用いる必要がある。

 その結果、例えば、就学援助のうち新入学児童生徒学用品など(生活保護の要保護者と準要保護者)の入学前支給の実施状況を2018年7月時点(文科省資料)で見ると、県内41市町村のうち実施している自治体は小学校17・1%(全国は47・2%)、中学校39%(同56・8%)にすぎない。

 山口県では小学校94・7%、中学校100%、大分県では小学校・中学校ともに83・3%など沖縄県内市町村よりも高い実施率の都道府県がほとんどである。

 さらに懸念されるのは、今後支援を検討していない自治体の比率が全国では小学校13・1%、中学校12・1%と少ないのに対し、県内市町村ではそれぞれ24・4%と高く、全国の2倍程度あることである。

 16年度の公立小中学校児童生徒総数に占める生活保護対象の要保護児童生徒に対する就学援助率(国庫補助率は2分の1)を見ても、全国1・36%に対し、沖縄県は1・54%と上回ってはいるものの、北海道の3・32%、大阪府の3・04%、高知県の2・32%など、沖縄県を上回る道府県が七つ存在する。

 都道府県別の最低生活費を基に子どもの貧困率を推計した山形大学の戸室健作准教授の研究によれば、12年の子どもの貧困率は、全国13・8%に対し、沖縄県は37・5%と47都道府県の中で最も高く(次点は大阪府の21・8%)、際だっていたにもかかわらず、生活保護世帯の捕捉率は11・5%(全国15・5%)にすぎず全国よりも低い結果となっていた。

 このことより、沖縄県の就学援助率が子どもの貧困率の高さに比例して必ずしも高くない背景には、全国一律の生活保護などの制度の影響(国庫補助率が2分の1と低く市町村の負担割合が高い)があるものと考えられる。すなわち県内市町村は高率補助の一括交付金や政府の貧困対策事業で支出可能な教育・福祉分野を優先し、既存の補助率の高くない事業や一般財源を用いる事業は過小支出に陥っている可能性がある。

 最後に、現行制度に対する「保有効果」「現状維持バイアス」の問題を指摘しておきたい。前者は現在所有しているものに対して無条件に高い価値を感じ、それを手放すことに心理的な抵抗を覚える人間の心理だ。後者は未知なもの、未体験なことを受け入れず現状維持を望むバイアスのことである。

 沖縄の日本復帰以降、現行振興制度が続いてきたが、本来、インフラ整備のための予算確保の観点だけではなく、1人当たり所得の向上や人間開発などの「真の発展」の観点からのさまざまな議論が必要と思われる。例えば、今後、一気に高率補助制度をなくすのは無理だとしても、必要性の低い公共事業を減らすのはどうか。

 一般財源を確保するためにも(1)ハードの一括交付金に関しては段階的に補助率を下げる一方、ソフトの一括交付金に関しては現状を維持する(2)鉄軌道建設のような大型プロジェクトに関しては高率補助を維持し、道路延伸・拡幅のような通常の公共事業に関しては段階的に補助率を下げていく―などの議論があってもよい。現状に固執せずに、さまざまな可能性を検討していくことが望まれる。
 (経済学)