拡大阻止へ加速 豚熱 ワクチン接種決定 迅速さ際立つ政府対応 作業長期化を懸念


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江藤拓農相(右)に、ワクチン接種推奨地域への指定など豚熱感染拡大防止を要請する玉城デニー知事=24日、農林水産省

 農林水産省の有識者委員会が24日、沖縄県を豚熱(CSF、豚コレラ)ワクチン接種推奨地域に設定したことを受け、今後は県によるワクチン接種プログラムの作成など接種実施に向けた手続きが進む。県はプログラム作成の専門チームを立ち上げるなど対応を加速させる一方、一度打ち始めたワクチンはやめ時が難しいなど課題も指摘され、影響は長引きそうだ。

 「きょう、推奨地域に指定する」

 玉城デニー知事によるワクチン接種の協力要請に対し、江藤拓農相は即日の推奨地域指定を明言した。農水省は有識者委員会を招集することなく、持ち回り確認により沖縄県を21都府県目の推奨地域として追加することを決めた。

  ■慎重論も

 江藤農相は、沖縄で豚熱の感染が確認された初日の8日に直ちに沖縄入りし、玉城知事と面談してワクチン接種に言及するなど当初から沖縄側の対応を促してきた。県から地域指定の要請があることを見据え、かねて事務方に準備を進めるよう指示していた。

 玉城知事の要請に応じ、ワクチン接種を担う家畜防疫員の確保でも支援する考えを表明。当初からの迅速対応が推奨地域への指定でも際立った形だ。

 一方で、県内の豚熱は15日に4例目の感染が確認されて以降は新たな発生がなく、24日までに県が実施した発生農場から半径10キロ圏内にある養豚場検査も全て「陰性」だった。ヤマを越えたようにも見えることから、政府内には「経済的な負担もしながら接種を長く続けることが分かってくると農家の中にも慎重論が出てこないか」との声もあった。

 それでも県関係者は「トップがやると言った以上、接種をやらないわけはない」と語った。

  ■やめるのも大変

 ワクチン接種実現のめどが立ったが、一度接種を始めればワクチン接種を取りやめる時期は見通せないのが実態だ。

 ワクチン接種を終えるには、ウイルスが消え、豚への感染がなくなったことを確認することが必要となる。だが、ワクチン接種をした豚は抗体が体内に生まれることで、検査に「陽性」の反応を示す。陽性反応がワクチン接種によるものか、ウイルス感染によるものかの判別ができず、全頭接種をしてしまうとウイルスが消失しているのかの確認作業に難しさが出てくる。

 豚を抜き出して血液検査でウイルス自体が存在するのかを確認するなど、継続的な作業が必要となる。過去の事例では、ウイルスがなくなったと判断して接種が終わるまでに10年以上かかった例もある。

 だが、沖縄では現段階では、防疫が難しくなる野生のイノシシへの感染は確認されておらず、政府関係者には「(ワクチン接種終了まで)そこまで時間はかからないだろう」との見方もある。

 国の疫学調査チームから課題として指摘された、食品残さ(残飯)の加熱をはじめとした飼養衛生管理基準を全ての農家に徹底できるかも接種終了時期を占う重要な鍵となる。農水省関係者は「ワクチンは打つのも大変だが、やめるのも大変だ」と語った。
 (知念征尚、石井恵理菜)