【島人の目】名誉教皇「たわ言」の衝撃


社会
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 ローマ・カトリック教会は未成年者への性的虐待問題で厳しい批判を受けている。問題の元凶は聖職者の妻帯禁止だとされる。それを受けてフランシスコ教皇は、ブラジルのアマゾン地区で既婚者の男性が司祭になる道を開き、独身制の切り崩しを図った。そこに突然名誉教皇のベネディクト16世が「カトリック教会は独身制を守り通すべき」という主張をした。

 ベネディクト16世は2013年、生前退位して名誉教皇になり隠棲(いんせい)した。以来ほぼ完全に沈黙を守ってきた。それだけに今般の意思表示は、例え方は不敬だが“ゾンビの出現”のように唐突だった。ベネディクト16世には、聖職者の性的虐待問題から逃げるために退位した、という疑惑や批判が絶えずつきまとっているから、なおさらである。

 「教義の番犬」とも陰口された名誉教皇は、ガチガチの保守派で在位中は産児制限、同性愛、人工妊娠中絶などにも断固反対の立場を取り、司祭の独身制の維持にも固執していた。聖職者の独身制はカトリックの教義ではない。12世紀に始まった単なる慣習である。カトリック教会が独身制を導入したのは、聖職者に子供が生まれた時に、教会が資産を彼らに分与しなければならなくなる事態を恐れたからである。

 聖職者が独身であることが性的虐待行為の「引き金」の全て、という確たる証拠はない。また既婚者であることが虐待行為の完全抑止になる訳でもない。だが、ある程度の効力はあると考えられる。それだけでも独身制を破棄する意味がある。

 予期しない形で飛び出した名誉教皇の声明は、独身制の継続を主張するバチカンの守旧派を勢いづけるばかりではなく、フランシスコ教皇の改革を停滞させてバチカン内にさらなる分断をもたらす恐れもある。

(仲宗根雅則、イタリア在、TVディレクター)