首里城再建、膨らむ事業費 資材や人件費が高騰 政府関係者「2倍程度に」


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 首里城正殿などが全焼した火災から31日で3カ月を迎えた。正殿など建造物の再建は国が、文化財修復は沖縄美ら島財団が担う予定で、県は周辺整備や琉球文化の再興にも力を入れる考えだ。再建へ向けては政府の首里城復元に向けた技術検討委員会で専門家による検討作業が進んでいる。県の首里城復興基本方針に関する有識者懇談会では首里城の新たな活用を探る議論も始まっている。再建にかかる総事業費は不透明だが、前回の復元費用約73億円より膨らむとみられる。保険金や寄付金が建造物の再建費用に充てられる見通しだが、資材調達などで困難も想定される。

 首里城焼失から3カ月が経過し、再建や文化財の修復にかかる総事業費は確定していない。城郭内の建造物は国の所有であるため国の予算を充てる見通しだが、前回の戦後の復元費より膨らむとみられる。最大70億円の保険金も実際いくら支払われるのか見通せない。県や那覇市、マスコミの合同募金、指定管理者に寄せられた支援金は約27億円に上る。県は寄付金を正殿など建造物の再建に充てる方向で検討している。

 首里城正殿など建造物の再建は国が、文化財の修復は指定管理者の沖縄美ら島財団が担う見通し。今回焼失した建造物は戦後、約73億円かけて復元されたが、資材や人件費の高騰で費用はかさむとみられ、政府関係者からは「2倍程度になるのではないか」との見方もある。

 沖縄美ら島財団が契約している損害保険会社は、建物や収蔵品を含む首里城有料区域全施設の損害保険評価額を100億3500万円と査定。保険金の支払限度額は70億円で、実際の支払額は査定中だ。

 県に託された寄付金は10億1450万6271円(29日現在)に達した。那覇市には計13億5462万3460円(29日現在)が寄せられた。琉球新報社など県内マスコミ10社が合同で受け付けている「首里城再建支援のための県民募金」は24日現在で計2794件、2億6223万1027円。市と「県民募金」は最終的に県に託す考えだ。

 一方、沖縄美ら島財団は、もともと文化財の収集・復元・保存のために設置している「首里城基金」も文化財の修復に充てる予定。火災発生以降、同基金には683件、5919万8276円(29日現在)が寄付された。

 玉城デニー知事は、首里城再建と並行して琉球文化の再興や周辺整備も進めたい考えを表明している。仮にソフト事業などに寄付金を使う場合、現在の募金とは別に改めて使途を定め、そのための寄付を募ることになるとみられる。

再発防止へ防火体制にも課題

 県警は首里城火災について出火原因は不明として捜査を終結した。消防による調査は続いており、県は消防の調査結果を待って第三者委員会を設置し、再発防止策などを独自で検討する考えだ。世界遺産であり、貴重な文化財を保管するための首里城。再発防止に向け、具体的にどのような対策を講じていくかが問われている。

 首里城は世界文化遺産に登録されているが、地下の遺構である国史跡「首里城跡」以外は復元施設で、重要文化財には該当しない。木造でありながら文化財保護法に基づく防火対策などは義務付けられておらず、消防法によるスプリンクラー設置などの防火対策も対象外だった。

 首里城正殿には延焼防止のために屋根軒下などから水を流す「ドレンチャー」設備が復元当初から設置され、火災発生時も稼働していた。また、消火設備として放水銃も整備されていたが、正殿周辺に設置された4基の放水銃のうち、正殿裏の1基はふたを開ける工具がなく、使用できなかった。他の放水銃も初動対応に当たった警備員が火災の熱で設置場所に近寄れず、消火に活用できなかった。

 訪問客のいない夜間の火災発生を想定した消火訓練なども未実施だった。火災発生時に首里城有料区域内にいた警備員2人のうち1人は仮眠中で、警報に気付いた警備員は仮眠中の警備員を起こさずに現場確認に向かったことも聞き取り調査で判明。ルールで定められていたモニターの常時監視をしていない時間が生じたことになる。県には失火と延焼を防ぐ具体的な取り組みが求められている。