「芸能だけでは食べていけない」 若い実演家を取り巻く厳しい現状 次世代への環境づくりを議論 〈組踊300年シンポ〉上


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組踊上演300周年記念シンポジウムで私見を述べる野村萬氏(左から2人目)。ほか登壇者の(右から)喜舎場盛勝氏、田名真之氏、宮城能鳳氏、眞境名正憲氏とコーディネーターの大城學氏(左端)=22日、浦添市の国立劇場おきなわ

 組踊上演300周年記念事業実行委員会主催の組踊上演300周年記念シンポジウム「上演400周年に向けて広げ、つなげるための取り組み」が22日、浦添市の国立劇場おきなわ小劇場であった。同実行委員会の事業報告や、実演家や専門家によるパネルディスカッションが行われた。1部と2部で計10人が登壇したパネルディスカッションを、2回に分けて紹介する。

 1部・パネルディスカッションは、日本芸能実演家団体協議会の野村萬会長、伝統組踊保存会の眞境名正憲会長、琉球舞踊保存会の宮城能鳳会長、県立博物館・美術館の田名真之館長、沖縄伝統太鼓協会の喜舎場盛勝会長が登壇して、大城學岐阜女子大学教授がコーディネーターを務めた。

 眞境名氏は「実演家、特に若い方々を取り巻く状況や環境は、仕事として(芸能)をやっていくためには大変厳しくて芸能だけで食べてはいけない」と訴えた。その上で「当事者だけでなく、みなさん、行政もみんなで支えていく。組踊はみんなの宝。子どもたちが誇りを持って携わっていける環境づくりが次の50年、100年に向けて大切なことだ」と力を込めた。

 宮城氏は「立方、地謡の伝承者が増えているのは喜ばしいことだが、琉球古典の唱え方、発音や舞踊の踊り込みが十分でない」と指摘。映像資料が豊富なことから、師匠と相対して稽古をする時間が減っている現状を懸念し「(自らに)厳しく、教える側も習う側も取り組むことだ。日本を代表する伝統芸能として、資質を高めることに当たってほしい」と話した。

 田名氏は、組踊を創作した玉城朝薫が踊奉行を務めたときに別の踊奉行がいなかったと言い切れないことや、「組踊」という用語が使われ出した時期が不明確な現状などを紹介。「組踊は分からないことが多くある」とし、研究を続ける必要性を述べた。

 喜舎場氏は、師匠で国指定無形文化財「組踊音楽太鼓」保持者(人間国宝)の故島袋光史氏の道具作りへのこだわりを中心に話した。「先生の良いところは何でも一生懸命になれるところ」「新しいものに常に心を向けていた」とし、「こういう人が沖縄に育ってほしいと若い人に期待している」と語った。

 野村氏は、世阿弥が「位」を重んじたことに触れ「朝薫の五番は他の組踊と違う位置づけであってほしい。技術を習得しながら、芸にも位があるというようなことも心に入れて修練を積んでいただきたい」と話した。最後に「行政、経済界と文化(私たち)が三位一体にならないといけない。また、組踊の伝承を考えたときに、観客に問いながら継承をしないといけない」とし、301年目に組踊がますます発展することに期待を込めた。 
 (藤村謙吾)