かすかな音でボールの軌道を把握 安室早姫 “音の攻防戦”ゴールボールで東京パラリンピック代表狙う


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安室 早姫

 東京パラリンピックの実施種目で、試合は“音の攻防戦”とも称されるゴールボール。鈴の入ったボールを転がし、音を頼りに得点を奪い合う視覚障がい者競技で、八重瀬町出身の安室早姫(26)=沖縄盲学校―筑波大付視覚特別支援学校高等部―明治大出=が女子の代表入りに向けて奮闘している。夢の舞台に立てるのは6人のみ。厳しい選考レースだが「東京パラはずっと目標だった。常に安定したプレーで、攻守でチームを落ち着かせられるようにしたい」と挑み続ける。

 東京パラ ゴールボール

 小児がんの一種「網膜芽細胞腫」で1歳頃に両目の視力を完全に失った。物心が付いた後に失明した選手に比べ「もともと音を頼りに生きてきたから、より敏感なんだと思う」と、かすかな音をキャッチして相手の位置やボールの軌道を素早く読む力に優れる。

代表合宿で聴覚を頼りに、体を放り出してボールを止める安室早姫=2日、東京都北区の都障害者総合スポーツセンター

 1、2の両日に東京であった代表合宿では、抜群の聴力を生かした高い守備力でアピールした。市川喬一監督(43)も「サーチ力は代表でもトップクラス」と太鼓判を押す。現在シニアの強化指定選手は10人。東京パラの代表にはそのうち3人が既に内定しており、残り3人は3月末までに決定予定だ。

 本格的に競技を始めたのは筑波大付属の視覚特別支援学校高等部2年の時。「ボールを取るのが楽しい」と視覚障がい者によるフロアバレーボールやグランドソフトボールに親しんでいた。それを見たゴールボール部の寺西真人監督が「ボールの位置を感じる力が高い」と勧誘した。

 試合中、コート上の3人が休む間もなく互いにボールを投げ、守り合う。選手はアイシェード(目隠し)を装着するため、弱視のチームメートから指示を受けることも多い視覚障がいの他競技に比べ「自分で音を聞き、自分で判断してボールが取れる」と自力のみで戦う競技性に引かれ、のめり込んだ。

 鋭い聴力で頭角を現し、大学3年時の2015年にはアジア・パシフィック選手権の優勝に貢献するなど日本代表にも招集されるようになった。しかし、翌16年のリオデジャネイロパラリンピックでは代表から落選。パワーのある海外勢に対抗するため、守備を重視する代表チームで「まだ守る力が足りなかった」と振り返る。

 卒業した支援学校の在校生や卒業生でつくる「チーム附属」に所属。代表落選の悔しさを糧に成長を続け「サーチ力を生かして仲間が気付いていない情報を共有し、全体の守備にも貢献したい」とプレーの幅を広げている。

 さらに選考レースを勝ち抜くために注力しているのが攻撃力の強化だ。これまでは守備の隙間を狙うコントロールを重視してきたが、より腕を後ろに引いてボールに勢いが付くフォームに改良。コントロールとの両立は課題だが「良い時と悪い時の波をなくしたい」と探究心は尽きない。

 女子日本代表は12年のロンドン大会で金メダルを獲得した世界の強豪だ。近年は他国のレベルも向上しているが「東京でも金を目指している。自国開催で注目されている中で、良い結果を残したい」と奮い立つ。

 平日はヘルスキーパー(企業内理療師)としての仕事後に練習へ向かう。両立の難しさから競技を離れた時期もあったが、両親に「パラリンピックに出ている姿を見たい」と言われ、再開した。「小さい時は治療で沖縄から何度も東京の病院に通って、すごい苦労をかけた。喜んでもらいたい」。感謝の気持ちを力に変え、感覚をさらに研ぎ澄ませていく。 (長嶺真輝)

<用語> ゴールボール
 光を遮断するアイシェード(目隠し)と呼ばれるゴーグルを装着し、1チーム3人で行う。試合時間は前後半12分の計24分。コートの広さは縦18メートル、横9メートルでバレーボールと同じ。コート両端の9メートルに幅いっぱいのゴールネットが設置されている。バスケットボールと同程度の大きさで、重さ1・25キロのゴム製鈴入りボールを転がし合い、点数を競う。守備側は体を放り出して得点を防ぐ。コート上のラインテープには3ミリ以下のひもが埋められており、選手たちは凸凹に触れて位置や方向を把握する。小さな音を頼りに競い合うため、プレー中は静かにすることが観戦マナーとなっている。