「キャラメル」でだまされ日本に… 悲惨な過去を背負った女性の生涯姿描く 「劇団石 ひとり芝居 キャラメル」


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ホン・オクスンの葬儀の準備をするキム・スッキ(きむきがん)=1月24日、那覇市の琉球新報ホール

 「劇団石(とる) ひとり芝居 キャラメル」(脚本・演出・出演きむきがん)の沖縄初公演が1月24日、那覇市の琉球新報ホールであった。かつて日本軍の慰安婦にさせられたハルモニ(おばあさん)が、悲惨な過去を背負いながら世間の片隅で生きる姿を軽妙なタッチで描いた。彼女たちの尊厳回復を願う温かな脚本と、きむの熱のこもった演技が観客の胸を打った。

 同じ村で育った韓国人ホン・オクスンとキム・スッキはかつて、共に「キャラメル」をちらつかせる大人にだまされて日本軍の慰安婦にされた。2人は戦後に大阪で出会い、支え合いながら生きてきたがオクスンが息を引き取る。スッキは、オクスンに自転車の乗り方を教えていた大阪朝鮮高校の生徒カン・リョンミに、葬儀の準備を手伝ってもらう。葬儀が進むにつれ、オクスンとスッキが胸に秘めていた過去と感情が、明らかになる。

 スッキらによる葬儀の準備は、時に観客を舞台に招いての軽快なやりとりや個性的な弔問客の訪問があり、笑いが絶えなかった。しかし、知らない人にキャラメルをもらった知人の娘を叱り飛ばした過去など、やりとりの節々に慰安婦の影を感じさせた。

 終盤に慰安婦として日本軍人の相手をした過去の回想を経て、スッキは「今度生まれ変わったら、自分の国で幸せに暮らそう」とオクスンに語りかける。リョンミは「人が生きるとはどういうことか」と問い続け、オクスンが自転車に乗りたがっていた理由から答えにたどり着く。序盤と中盤で丁寧に積み重ねてきたハルモニの人物描写が合わさり、スッキとリョンミの語りに観客は涙した。

 きむは複数の人物を1人で違和感なく演じ分けて、役者としての技量の高さを感じさせた。また、スッキがリョンミにもらったチマ・チョゴリの制服を普段着にしている設定や、一瞬の衣装替えなど演出の妙も光った。人間味あふれるハルモニの姿は、旧日本軍が犯した消すことのできない過ちへの向き合い方を静かに観客に問うた。
 (藤村謙吾)