「外に出る気力もない」 豚は1頭もいない…1127頭全て殺処分 豚熱発生農家の苦悩


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自身の養豚場から豚熱に感染した豚が見つかった農家の男性。「外に出る気力がない」と話す=6日、うるま市

 【うるま】豚熱(CSF)に感染した豚がうるま市内の養豚場で最初に見つかってから、8日で1カ月がたった。最初の感染が確認された養豚農家の男性(59)=うるま市=はこの1カ月を振り返り、「喪失感が大きい。家の外に出る気力もない」と力なく語る。飼育していた豚1127頭全てが殺処分され、1頭もいなくなった。

 ぐったりして餌を食べない豚がいるのに気付いたのは昨年11月下旬だった。

 当初は肺炎などの病気にかかったのかと思ったが、注射でいくら治療しても状態が良くなることはなかった。獣医師に相談し、年明けに県中央家畜保健衛生所に連絡した時には既に10頭以上の豚が死んでいた。

 「まさか豚熱だとは思わなかった。大変なことになってしまった」と頭を抱えた。養豚場内には従業員以外入れないよう衛生管理を徹底してきた中での発生。頭が真っ白になった。

 うるま市や沖縄市では、それ以降も豚熱の感染が相次ぎ、今月2日には沖縄市内で県内5例目の感染が確認された。報道に接するたび「ずっと心苦しかった。もうこれ以上発生しないでほしいとばかり願っていた」と話す。

 父の代から続けてきた養豚業。トートーメー(位牌(いはい))には、手塩に掛けて育ててきた豚を「守ることができなかった」と手を合わせて報告した。

 これを機に廃業することも検討した。しかし男性の元には激励の言葉がたくさん届いた。同業者からも励ましの電話がかかってきた。養豚業を続けたいという思いも湧いてきた。

 だが「今はまだ決められない」という。終息宣言も出ていない現状で、今後の見通しは立てられそうにない。

 戦後沖縄の養豚は、ハワイから海を越え、うるま市へ届けられた550頭の豚に支えられた。その土地で豚肉文化を継承していくためにも、男性は早期の終息を願い続けている。(砂川博範)