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琉球語の正書法 知的遺産復興に不可欠<佐藤優のウチナー評論>


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 15日に琉球新報ホール(那覇市泉崎)において、公立名桜大学主催、本紙共催で「国際シンポジウム 琉球諸語と文化の未来」が行われる。筆者もパネリストの1人として参加する。現時点で、筆者は琉球語について考えていることを箇条書きにしておく。

 〈1、言語は、民族、エスニック・グループの文化を形成する中核的位置を占める。沖縄文化、沖縄人のアイデンティティーの維持、発展する上でも琉球語は死活的に重要な言語である。

 2、近代化の過程(日本の中央政府による国家統合と国民統合、都市化)において、琉球語が急速に衰退した。琉球語の維持と発展は沖縄人のアイデンティティーを強化する上で不可欠である。

 3、差異が大きい琉球諸語の中から、日本の中央政府と合意文書を策定することができる標準的な琉球語の確立が急務となる。その場合、首里方言、那覇方言を基礎とすることが合理的になる。

 4、琉球語の話し言葉が確立するためには、書き言葉が定着する必要がある。書き言葉を定着させるためには、正書法の制定が不可欠だ。

 5、漢字、仮名を解さないウチナーンチュが少なからず国外にいることを考慮すれば、正書法は、ローマ字と漢字・仮名の併用が適切である。

 6、正書法制定について県による意思が決定されるまでには、かなりの時間がかかるので、名桜大学で、学内で使用する暫定的な正書法の規則を定め、運用することを提案する。〉

 焼失した首里城の再建が重要な課題になっている。形となったわれわれの文化である首里城の再建は、沖縄人のアイデンティティーを維持、発展させる上で象徴的な重要性を帯びている。それとともに、琉球・沖縄の知的遺産を復興することもとても重要になると考えている。

 筆者が危惧しているのは、日本の政争の影響を受け、沖縄社会に本来、関係のない分断が生じていることだ。それを克服するために重要なのが、われわれの文化によって政治を包み込んでいくことと筆者は考えている。

 筆者は沖縄人であるという自己意識を持った職業作家であるが、琉球語で自らの意思を表現することができない。外交官として訓練を受けたロシア語で自らの意思を表現することはかなりできる。筆者の本来の母語である琉球語よりもロシア語の方が堪能であるという現実が筆者にはとてもくやしい。こういうくやしい思いを次世代の沖縄人にさせたくないと思っている。

 そのためには、琉球語の正書法を定めることが焦眉の課題と考える。琉球語とわれわれの文化の未来について、読者と率直に意見を交換したいと思っている。

(作家・元外務省主任分析官)