デビュー曲「恋しくて」の後、ヒット曲のなかったBEGINは1996年、全国各地のライブハウスを巡るツアーを始めた。安室奈美恵やMAX、DA PUMP、SPEEDなど、県出身アーティストが華々しくデビューを飾る中、なぜライブハウスを巡ったのだろうか。
BEGINの所属事務所であるアミューズの元社長、松崎澄夫さんはデビュー当時からBEGINを見てきた。「最初『イカ天(三宅裕司のいかすバンド天国)』で3人(比嘉栄昇、島袋優、上地等)を見た時はとんでもない連中が現れたと思った」と回想する。「3人の奏でるブルース、栄昇の透き通る歌声、服装、どれもがかっこよくて飛び抜けていた」。松崎さんはすぐさまBEGINとコンタクトを取り、3人をアミューズに引き入れた。
「恋しくて」のデビューの後、一流の作詞家と作曲家、サポートメンバーを引き入れて次々とCDをリリースし、大きなステージでライブをするが、思うようにヒットはしなかった。BEGINと松崎さんはその原因の一つに「下積み時代を経験しなかったから」と口をそろえる。バンドは通常、ライブハウスなどで経験を積み重ね、メジャーデビューを飾る。BEGINは音楽経験が浅いまま一気にデビューへと駆け上がった。松崎さんは「才能あふれる3人であるが故に、私たちも期待以上のことを求めてしまった」と猛省する。
BEGINは経験不足を補うため、ライブハウスツアーやロック喫茶B.Y.Gのマンスリーライブを重ね、ライブバンドとしての技術を一つ一つ身に付けていった。松崎さんは「ライブをするうちに優もコーラスができるようになり、3人の音楽に対する自信も取り戻していった」と語る。
栄昇はこの時期を「低迷期」と呼ばないようにしている。「さまざまな人と出会い、いろんな音楽と触れ、刺激を受けた。そして何より必ずファンがライブを見に来てくれた。低迷期と言ったらファンに失礼だ」
やがて、3人の奏でる音楽は大きく変化することになる。
(金城実倫)