「沖縄に恩返ししたい」 3人が始めた新しい形の音楽フェス 平和の喜びを歌で祝う 〈「うたの島」から世界へ BEGIN30年の歩み〉⑥


この記事を書いた人 問山栄恵
BEGINの「マルシャショーラ」で盛り上がる「うたの日コンサート」=2019年6月、嘉手納町兼久海浜公園

 BEGINの比嘉栄昇、島袋優、上地等の3人は2001年、沖縄で新しい形の音楽フェスティバルを開催することに挑戦した。メジャーデビューから10年、BEGINがつくる音楽は県民や全国の多くの人に愛され、共感を得た。そのような中で「沖縄への恩返しがしたい」という気持ちが3人の中で芽生えた。

 きっかけは00年にさかのぼる。長崎市出身のさだまさしが毎年長崎で開催する平和コンサート「夏 長崎から」に出演した。舞台に立ち「自分たちもうたの島から世界に向けて平和を発信するコンサートを開きたい」と考えるようになった。喜納昌吉にアドバイスをもらいながら、コンサートを企画していった。

 3人は慰霊の日の翌日にコンサートを開くことにした。優は「沖縄戦のさなか、ウチナーンチュは鉄の暴風が吹き荒れる中でも小さな声で歌っていた。戦争が終わった次の日はきっと誰もが歌ってもいいんだ、踊ってもいいんだと解放された気持ちで喜んだと思う。平和の喜びを歌で祝おうと、慰霊の日の翌日を『うたの日』と定めて、コンサートを開こう」と決意した。

 01年6月24日、那覇市のダンスクラブ松下(現ナムラホール)で初の「うたの日コンサート」を開き、喜納や森山良子が出演し、喝采を浴びた。翌年には忌野清志郎などが出演、3回目以降からは野外ステージとなり規模の大きいフェスへと成長していった。等は「最初は自分たちが影響を受けたアーティストを呼んだが、回数を重ねるうちに沖縄にしかできないフェスをやろうと方針を変えた」と回想する。「遊びに来た本土のファンに『沖縄はすごいよね』って楽しんでもらおうと新たな要素を取り入れた」

 その一つが、今では定番となったBEGINの「マルシャショーラ」だ。明るく、軽快で哀愁のある2拍子のマルシャは、サンバの源流となった音楽。うたの日コンサートではトリを飾り、ノンストップで演奏し、観衆の心を引き付ける。栄昇は「ブラジルを訪ねて、100年以上前に最初の日本人移民がマルシャの音楽に触れたことを想像して胸が熱くなった。できるか分からないけどやってみよう」と、BEGINのオリジナル曲や日本の歌謡曲をアレンジし、マルシャに仕立てた。

 15年から出演を続けている琉球サンバユニット「宮城姉妹」の宮城佳代子は「ブラジルは沖縄の移民の方が多く住んでいても県民にとっては遠い存在だった。でもBEGINの皆さんが『マルシャショーラ』を演奏したことで、より身近な存在になったと肌身で感じる」と語った。

 今年でデビュー30周年を迎えたBEGIN。今日では自分たちの楽曲だけでなく、若手のアーティストに曲を提供し、それぞれソロで活動することも多くなった。これからはどんな音楽を披露してくれるのか。

 等は「基本的にこれまでとは変わらない。でも新しい何かをつくりたいという意欲はある」と打ち明ける。優は「30年もやっているということは何かあるとは思う。3人とも控えめなところがあるから、いい意味でうぬぼれて、30年の集大成と言うか、2020年で思ったことを歌にできたらと思う」と笑う。栄昇は「等が言うように基本的な部分は変わらない。結婚式や卒業式の余興で使われるような音楽を届けたい」と思いを告げた。(金城実倫)
(おわり)

◇BEGINは今年も「うたの日コンサート2020」を開催する。20回目となる今年は会場を変えて開く予定。

詳細は公式ホームページで発表する。