「信じられない」アメリカの議員が驚いた日本政府の姿勢 住民投票の結果無視は「責任放棄」 〈壁突く民意 県民投票から1年〉上


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訪米を振り返り「(新基地建設の)見直しを要請したことを受け止めてもらった」と語る玉城デニー知事=2019年10月18日、ワシントン市内

 「信じられない」。2019年10月、米首都ワシントンの連邦議員会館。米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票で、投票者の約7割が反対の意思を示したにもかかわらず日本政府が工事を強行している状況を玉城デニー知事から説明を受けた一部の議員が驚きの声を上げた。県幹部は「アメリカは民主主義の国だ。住民投票を無視して公共工事を強行するのはおかしいという捉え方だった」と振り返る。

 19年2月24日の県民投票から約8カ月後の同年10月14日、玉城知事は訪米した。米西部カリフォルニア州のスタンフォード大学で講演し「県民投票の結果を米政府が尊重しないのは基地を運用する当事者として責任を放棄している」と批判した。「沖縄の米軍基地問題に関心を持ち、有権者として米政府や議員に手紙を書くなど働き掛けてほしい」と訴えると、聴衆は拍手で賛意を示した。

 米首都ワシントンに移動した玉城知事は上下両院の議員や政府関係者らと会談を重ねた。米議会はそのころ、20会計年度(19年10月~20年9月)の国防予算の大枠を決める国防権限法案の一本化に向け、上下両院の軍事委員会のメンバーが協議を続けていた。

 トランプ大統領の弾劾などを巡る攻防で「時間がない」と面談に応じなかった重鎮議員もいたが、玉城知事はトランプ大統領の側近と言われるブラックバーン上院議員(共和)らに県民投票の結果を尊重するよう直訴。「身を乗り出して話に聞き入る議員もいた」(玉城知事)と確実な手応えを感じた。

 国防権限法案の上下両院の取りまとめで、在沖海兵隊の分散配備の調査義務という上院案の条項は見送られたが、玉城知事は「一喜一憂はしない」と繰り返し国際世論に沖縄の声を届ける意思を示した。

 「普天間問題は日本の国内問題だ」。玉城知事の訪米で高い壁となったのが国防総省、国務省だ。従来の立場を崩さず、県民投票で示された民意を尊重して移設計画を見直す考えは示さなかった。

 共和党に近い保守系のシンクタンク「ヘリテージ財団」のクリングナー上席研究員は県民投票で示された民意に米政府が配慮しない理由について「米軍の再編に関する主権国家同士の合意だということが本質だ。普天間の移設場所をどこにするのかというのは日本国内の問題だ」と解説する。

 その上で「普天間問題はかつてワシントンでも関心が高かった。だが沖縄県が(辺野古埋め立てを)承認した後は『既に終わった話』として議論されなくなった」と13年12月の仲井真弘多知事(当時)の承認が分岐点だったとの見方を示した。

 米国は20年11月に大統領選挙を控える。トランプ大統領の再選が有力視されるが、民主党はサンダース上院議員らリベラル派の候補者が根強い人気を誇る。

 野党国会議員でつくる「沖縄等米軍基地問題議員懇談会」の近藤昭一会長(衆院議員、立憲民主)の議員らが1月に訪米し、米政府関係者や上下両院の議員らに辺野古の新基地建設中止を働き掛けるなど、県民投票の結果を受け、両国の議員間のパイプができつつある。

 玉城知事を支える呉屋守将後援会長は「県民投票は沖縄の一里塚になった。示された圧倒的民意はいずれ日米両政府にボディーブローのように効いてくるはずだ」と語気を強めた。
 (松堂秀樹)


 辺野古新基地建設に伴う埋め立て工事の賛否を問う県民投票から24日で1年を迎える。投票者の約7割が投じた反対の民意は、玉城デニー知事の訪米行動や市民団体の「新しい提案」を後押しした。玉城県政を突き動かし、日米両政府や本土の無関心の壁を突き続ける民意のうねりを追う。