「賛成」「反対」を超えたところに見えたもの 25歳の写真家が写し出す「沖縄」


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「なかったことにしたくない」と語り県民投票の写真展を準備する普久原朝日さん=20日、那覇市安里のひめゆりピースホール

 肩が触れあうほどの路地が交わる沖縄県那覇市安里の栄町市場にあるひめゆりピースホールで、若い写真家の展示会が始まった。写真家は地元で生まれ育った普久原朝日さん(25)=那覇市。展示されているのは名護市辺野古の埋め立て賛否を問う県民投票を追った写真だが、そこに掲げられているのは「賛成」と「反対」で対立する構図ではない。「沖縄を思う気持ちは同じかもしれない」。向き合ったからこその本音がこぼれた。

 バスケ部だった真和志中2年の頃、プロバスケの琉球ゴールデンキングス観戦に合わせ、おばからカメラを借りた。それが写真との出合いだった。浦添高校で「賞をとる」と理由を付けて写真部を創部。第35回県高校写真コンテストで金賞を受賞し、のめり込んだ。

 日本大学に進み、国際関係学部キャンパスのある静岡で学んでいた時、沖縄で米軍関係の事件事故が起こると何かできないかやきもきしたこともあった。2018年4月、大学を卒業し、沖縄に帰ってくると辺野古で新基地建設を止めようと集中行動が起きていた。写真を撮ろうと現場に向かった。そこでは父と同じ年ぐらいのお年寄りが、自分と同じ年頃の若い機動隊員に排除されていた。

 「父の体験の重みを知った」。80歳になる父は沖縄戦を経験し、5歳で両親ときょうだいの命を奪われ、戦争孤児となった。頭には今も鉄片が残り、MRIも受けられない。沖縄で生きる一人として「戦争は過去の出来事ではない」と実感した。

 現場の写真を撮るようになると「辺野古」県民投票の会元代表の元山仁士郎さんと知り合い、会のメンバーに加わった。署名集めや元山さんのハンガーストライキ、音楽祭など県民投票に関わる場面でシャッターを切った。いろんな人と話もした。

 栄町市場の飲み屋で会った男性は「オスプレイは危ない。普天間だと危険だ」との理由で埋め立て賛成の立場だったが、話していると県民投票には賛同してくれた。ハンストの現場では右翼団体から攻撃的な言葉を浴びせられたが「マスコミには気をつけれよ」と忠告され、若者が行動していることを激励された。

 県民投票の結果は埋め立てに「反対」の得票が有効投票総数の72・15%に達した。だが、そんな結果に耳を貸さない現実が辺野古の現場では進む。

 普久原さんは意見が異なる人でも正面からぶつかれば思いに触れられることを知った。その多くは埋め立ての「賛成」「反対」を超え、単純に「沖縄が好き」ということだった。だからこそ賛否にかかわらず、示された意志を写真に込めた。「どうしてもなかったことにはしたくない。追体験してこれからの対話のきっかけにしてほしい」
 (仲村良太)


 24日で米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の埋め立ての賛否を問う県民投票から1年。あらゆる形で示された人々の思いに触れた。
 

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