虐待、精神疾患、貧困… 複雑な要因が絡み合う引きこもり 先進的な支援をする谷口さんが提唱する解決の方法とは…


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 沖縄大学土曜教養講座「沖縄の子どもの貧困、私たちの課題」第7回目として「ひきこもった子どもと親たち―親の責任? 親支援とは何?」(琉球新報社共催)が1月25日、那覇市の沖縄大学で開かれた。佐賀県で先進的なアウトリーチ(訪問支援)活動を行う谷口仁史さん(ステューデント・サポート・フェイス代表理事)が効果的な実施方法について講演し、引きこもりを経験した崎原旦陽(あさひ)さん親子らがシンポジウムで意見を交わした。

引きこもり支援について語る、ステューデント・サポート・フェイス代表理事の谷口仁史さん=那覇市の沖縄大学

 谷口さんは、相談者の自発的な来所を待つ施設型の相談窓口と、支援者が当事者の元に出向くアウトリーチでは、「見える実態が違う」と指摘。虐待やDV、精神疾患、貧困など複雑な要因が絡み合い、家族ごと支援しなければ解決しない難しさがある中、来所を待つ施設型支援では解決が難しいとした。

 深刻化するケースには、複数の相談窓口に相談しながら改善せず支援に対する不信感を高めた人が多く、引きこもりが長期化する傾向にあると説明。いじめが原因で不登校になった30代男性の事例を挙げた。

 男性には、教育関係からカウンセラー、宗教家まで多くの人たちが思いを持って関わったが、本人のニーズに合っていなかった。支援者間で情報共有もできず、同じような失敗を繰り返した結果、本人はどんどん追い込まれ、命に危険があるほどになったという。「関わり次第では取り返しのつかないことになる。相談意欲をそがないよう、入り口段階での徹底的な事前準備が必要」として3段階のポイントを説明した。

 まず事前情報の収集・分析で、当事者の困りごとや相談までの経緯、生育環境などの丁寧な聞き取りを挙げた。その際「この人なら分かってくれるかも」と思ってもらえるよう、その人の好きなことを否定せず、実際にやってみて本人にとっての面白さを理解し「価値観のチャンネルを合わせる」ことを強調した。

 第2段階は「私たちが当事者からどのように認識されるか、理解しないと」と支援者自身の自己分析を挙げた。話しにくい悩みまで話してもらうためには、支援者も自身を語り、目線を合わせる重要性を挙げた。

 第3段階には「当事者にとって大切なのは、この人がどんな人で自分に何をしてくれるかだ」として本人の興味関心や好きなこと、必要性に基づく「生きる情報提供」を挙げた。外からの働き掛けを拒むようになった若者には「本人がこよなく愛していた、ぼったくりのメイド喫茶に同行し、ポーズを取って記念撮影もした。その1枚で関係が作れる」。支援者自身の趣味や好みは封じて、徹底的に本人と価値観を合わせる重要性を繰り返した。

 支援を受けて引きこもりから社会復帰して結婚もし、後輩たちの支援に心を向けるようになった若者の事例を挙げ「どんなに困難でも道は開ける。つながり、支えることで思いやりの好循環が生まれる」と希望を語った。

<シンポジウム>解決、答えは本人の中に 経験者、識者 体験を共有
 

 

沖縄大学土曜教養講座で引きこもり支援について話し合う、経験者の崎原旦陽さん(右から2人目)、母の盛子さん(同3人目)ら=那覇市の沖縄大学

 谷口仁史さんの基調講演に続くシンポジウムでは、子ども若者みらい相談プラザsoraeの松本大進さん、引きこもり経験がある臨床心理士の崎原旦陽(あさひ)さんと母・盛子さんも登壇した。沖縄大地域研究所長の島村聡さんがコーディネーターを務め、「居場所」「ピアサポート」などのテーマでそれぞれの立場からの議論を促した。

 松本さんは県内の状況として本年度も5千件以上の相談があり、4割は不登校、2割はニートや引きこもりと説明。発達障がいや貧困、いじめ、虐待など複合的な背景があると指摘し「親、祖父母世代も大変な思いをして子育てしてきた」と世代をさかのぼるケアの必要性を指摘した。

 旦陽さんは小3から登校時に腹痛が起きて学校に行けなくなった。自身でも理由は分からず、母の盛子さんは「育て方が悪い」「無理にでも登校させて」と言われる中、病院を行脚して原因を探し、登校させようとした。このような初期対応について谷口さんは「家族もいっぱいいっぱいだ。貧困やDVのほか漠然とした不安、小さなストレスの蓄積など、同様の問題を抱えない人はいない。支援者は叱責(しっせき)や根性論ではなく、状況を受け止めることが大切。楽しみを作り解決することもある」と話した。

 「アウトリーチ」のテーマに島村さんは「優れた方法だが慎重に行う必要がある」として旦陽さんの経験を聞いた。「最後のとりでである自宅を土足で踏みにじられたら、いたたまれない」という旦陽さんに、盛子さんは「同級生が登校を誘いに来てくれたが行けない。来てくれる子もだんだんつらそうになった。元気のいい子が来ると逆効果だった」などと振り返った。旦陽さんは「友達を連れてきてほしいか、誰ならいいか、大人が決めず、本人に聞いてほしい」と話した。

 松本さんも「答えは本人の中にしかない」と同意。谷口さんはアウトリーチ対象者は「人間不信があり、相談意欲もないのが前提だ。一言が命取りになる」と慎重さを求めた。

 同時に、制度の課題が集積して困難に陥った1人を自立まで支援できれば、さまざまな課題を解決し、よりよい社会へのヒントになると指摘。就職氷河期世代支援として2020年度からアウトリーチ支援員が全国に配置されることに触れ、戦略的な人材育成の必要性を強調した。