主役と敵役が好対照の演技光る 組踊「伏山敵討」


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「ユイアシ」で臣下を引き連れて舞台に登場する天願の按司(宇座仁一)=22日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわの組踊公演「伏山敵討」(金城清一立方指導、玉城正治地謡指導)が22日、浦添市の国立劇場おきなわであった。なぎなたや太刀を手に斬り合う最後の場面など見どころの多い「敵討物」を、満員の観客が楽しんだ。

 棚原の若按司(宮城茂雄)は、父の棚原の按司を天願の按司(宇座仁一)に殺される。若按司は母親(親泊久玄)と亀千代(田口博章)と共に、棚原の按司の臣下・富盛大主(平田智之)に救われる。やがて月日がたち、若按司はあだ討ちの機会が来たと母親に告げ、「野に伏せ山に伏せ」て主君の敵を討つ機会をうかがっている富盛大主がいる本部山に向かう。同じころ、天願の按司も本部山で狩りを計画していた。

 舞台に一人で登場した富盛大主は、主君が討たれたいきさつとあだ討ちの決意を語る。口上の後の平田による口説に乗せた舞は淡々とした所作の中に、静かだが胸に秘める強い決意を感じさせた。富盛大主は、若按司に衰えぬ剣技を示す場面と天願の按司や臣下と斬り合う場面で太刀を振る。力が入り大げさな表現になりそうな場面だが、平田は目に光を宿すのみで表情全体には一貫して静けさを漂わせて太刀を振り、剣豪の風情を感じさせた。

衰えぬ剣技を披露する富盛大主(左・平田智之)と棚原の若按司(宮城茂雄)

 対照的に宇座は、表情豊かに敵役を演じた。狩りに向かう場面では「瀧落菅撹」に合わせて、口元をゆがめた憎々しい表情で家臣を引き連れて登場し、足を大きく上げて地面を踏みしめる歩み「ユイアシ」で舞台を盛り上げた。

 間の者(まるむん)の狩人は阿嘉修が演じた。滑稽な所作はないが、天願の按司の呼び掛けを無視して去ろうとする場面では、独特の間の使い方でしっかり笑いを生んだ。宮城の若按司も安定した美しさで、舞台を華やかにした。歌三線の玉城の年輪を重ねた歌声に、立方が中堅の実演家を中心に熱のこもった演技で応えた。

 ほか出演は、石川直也、池間隼人、川満香多、佐喜眞一輝、島袋浩大、仲宗根弘将、川満俊祐。歌三線は玉城、花城英樹、與那國太介。箏は安慶名久美子、笛は入嵩西諭、胡弓は運天伊作、太鼓は横目大通。

 1部で舞踊4題を演じた。組踊公演は萩生田光一文部科学相も観劇した。
 (藤村謙吾)