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新型コロナとイラン情勢 「排外主義」感染に警戒を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 新型コロナウイルスによる感染がイランでは深刻な政治問題になっている。

 〈イラン保健省報道官は25日、同省の副大臣が新型コロナウイルスに感染したと明らかにした。副大臣は感染拡大の防止に取り組むタスクフォースを率いていた。/副大臣は24日、感染防止対策などを説明する記者会見に出席していた。イラン当局によると25日までに感染者は中部コムや首都テヘランなどで計95人となり、このうち15人が死亡した〉(26日「日本経済新聞」電子版)。

 米国のポンペオ国務長官が2月26日の記者会見で、中国とイラン政府に対し、新型コロナウイルスによる感染について正確な情報を開示するよう要求した。

 イラン政府が事実上運営するウエブサイト「ParsToday」(日本語版)が28日に本件に対するロハニ(ローハーニー)大統領の見解についてこう報じた。

 〈イランのローハーニー大統領が、イラン国内問題に干渉する米政府高官の発言に触れ、「アメリカは、自国でのインフルエンザの拡散による数千人の死者を考えるべきだ」と述べました。/米ポンペオ国務長官は先日、「イランが同国内での新型コロナウイルスに関する詳しい情報を隠蔽(いんぺい)しているのではないか、と強く懸念している」と発言していました。〉

 〈ローハーニー大統領は26日水曜、閣僚会議において、新型コロナウイルスがイランでの労働・生産活動を停止させようとする敵の武器となってはならないとし、「統計からは、ここ数年、米国内ではインフルエンザで1万2000人から10万人が死亡している事が判明している」と述べました。/また、「米国などのイランの敵は過去2年間、常に制裁やプロパガンダによってイランでの生産・経済活動を停止させようとしてきた。だが、賢明な国民はこの陰謀を退けた」と語りました。/さらに、イランがコロナウイルス対策に総力をあげて取り組んでいることを強調し、「コロナウイルスは、イランの政府と国民の連携・協力により国内から駆逐されるだろう」としました〉。

 穏健派のロハニ大統領ですら米国が新型コロナウイルスによるイラン国民の不安感をかき立てて、イスラム主義体制を破壊する謀略活動を展開していると認識している。イラン社会では、陰謀論が広がりやすいので、新型コロナウイルスによる肺炎自体が、米国の陰謀であるという認識を持つイラン国民も増えるであろう。このような状況で、イランにおける対米強硬派の影響がかつてなく強まり、中東情勢が不安定になるリスクがある。

 2003年に中国南部を中心に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)や12年に発見されたMERS(中東呼吸器症候群)は、いずれもコロナウイルスによるものだったが、あのときは国際社会が協力して感染症に対応するという状況だった。現在は、新型コロナウイルスとともに外国人排斥が起きるとともにこの感染症を使って潜在敵国を弱体化させようと目論(もくろ)んでいる大国がある。

 新型コロナウイルスだけでなく、排外主義的ナショナリズムに感染する人が増えているという現実に対しても警戒心を持たなくてはならない。

(作家・元外務省主任分析官)