市有地売却議案成立に前のめり 自衛隊配備で石垣市 審議不足の声も出る中、市が急いだわけとは…


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傍聴席を埋め尽くした市民らを前に、市有地を自衛隊配備用地として売却する議案に賛成した市議会与党の議員ら(右側)=2日、石垣市議会

 石垣市平得大俣への陸上自衛隊配備に関して、石垣市議会は2日、市有地の売却と一部貸し付けをする議案を賛成多数で可決した。市の2019年度補正予算で契約する議案に対し、野党は手続きの不備や議論の時間不足を指摘したものの、与党が「多数決の論理」(野党市議)で押し切った。市当局が年度内の議案成立を急いだ背景には、自衛隊配備の可否を問う住民投票を求める訴訟を見据えた思惑があるとみられる。

 市が提案したのは、配備予定地にある市有地22・4ヘクタールのうち、約13・6ヘクタールを売却し、残りの約8・8ヘクタールは貸し付ける議案だった。ただ市議会与党の非自民系会派「未来」は2月29日に会見し、市有地全てを売却するよう求めた。

説明に食い違い

 こうした中で開会した2日の市議会本会議は「未来」の動向によって議案の可否が決定する事態となっていた。だが一部貸し付けを含んだままの議案に対し、「未来」が最終的に賛成したことで、市有地の売却が可決された格好だ。
 議決後、「未来」の箕底用一氏は中山義隆市長らと断続的な協議をしたことを明かし「任期中に貸し付け用地も売却していく方向を市長と確認した」と賛成理由を説明した。
 ただ中山市長は議決後の記者会見で「南西諸島で陸上自衛隊の必要性がなくなると、別の場所に移っていく可能性もある。貸し付けにしておけば、自衛隊が撤退後にも市有地として使える」などと、一部を貸し付けにした理由を説明。箕底氏の説明は市長の見解と食い違っている。一度は議案に反対する姿勢をにおわせつつ、賛成に回った箕底氏の姿勢には与野党双方から冷ややかな見方も広がる。

公明に配慮

 今回の議案審議で、中山市長の前のめりな姿勢も目立った。2日の議会で、野党側から審議不十分だとの指摘が上がると、議事を自ら止めて議長らと話し合う場面があった。審議途中の休憩では箕底氏らと数回にわたって話し合っていた。
 関係者によると、市有地について防衛省は当初、全用地の売却を求めていた。与党議員の一人は「市有地の貸し付けについては、理解が得られる市民を増やすために市長が防衛省側に求めたものだ。(配備に慎重な)公明への配慮もあったのだろう」と明かした。
 市議会の動向には、陸自の配備計画を進めたい防衛省も大きな関心を寄せていた。同省関係者は「配備に向けた重要な一歩になる」と胸をなで下ろす。一方、採決を急いだ市の姿勢について「住民投票の動きもある中で、早めに売却を決めてしまいたいというのが本音だったのではないか」と推測した。

市長リコールも

 「『日本一不幸なまち石垣市』になった」。2日の議会後、会見を開いた野党の宮良操市議はこう何度も繰り返した。野党は市議会の解散動議を出すなど、最後まで反対意思を示していた。さらに16日の最終本会議で市長リコール(解職請求)を動議で出す方針を示し、対決姿勢を強める。内原英聡氏は秋田県で国有地でのイージスアショア配備で計画が見直されていると指摘し「ずさんな工事など問題があれば、計画変更や中止となる。まだまだ問題は終わっていない」と強調した。(池田哲平、大嶺雅俊、當山幸都)