中韓からの入国規制と沖縄 国内に広がる不安心理<佐藤優のウチナー評論>


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 新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の感染拡大が脅威をもたらしているが、これには四つの要因がある。

 まず、第1は、新型コロナウイルス自体のもたらす脅威であるが、致死率で判断した場合、季節性インフルエンザと比較して大きな脅威とはいえない。ちなみに日本国内でのインフルエンザによる年間の死者数は、2017年が2569人、18年が3325人、19年が1月から9月までで3252人だ。第2は国際社会の受け止めで、第3は経済に与える影響、第4は国民心理に与える不安だ。

 5日、安倍晋三首相は、新型コロナウイルス感染症対策の一環で、中国(香港・マカオを含む)と韓国からの入国を制限する新たな措置を発表した。両国向けの発行済みの査証(ビザ)の効力を停止する。両国からの入国者は日本人を含めて全員、検疫所長が指定する場所で2週間待機してもらうことと公共交通機関を使用しないことを要請する。この措置は9日からとられる。

 さらに中韓と日本を結ぶ航空便の到着を成田、関西の2空港に絞り、旅客船舶運送を停止することも要請する。日本の措置に対して、近日中に中韓も対抗し、日本からの入国に対する厳しい制限を加えることになると思う。その結果、沖縄と中韓の間での人と物の移動が著しく困難になる。

 本紙は6日社説で、〈新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の感染拡大で経済活動が停滞し、県経済への影響が日を追うごとに深刻化している。沖縄観光コンベンションビューローは3~5月の観光客が前年同期に比べて152万人減少し、観光消費額で1024億円の落ち込みになると試算した。/現時点でも観光産業は深刻な被害を受けており、沖縄観光のピークである夏場まで影響が長引くようであれば、経済全体への打撃は甚大だ〉と指摘した。

 残念ながら、今後、状況は一層悪化すると思う。東京の中央政府は、新型コロナウイルスの感染拡大防止で手一杯だ。中央政府がとる政策が沖縄に与える影響にまで考えが回らない。至急、玉城デニー知事のイニシアチブで専門家を招集し、現下の状況が沖縄経済に与える影響について分析し、県民に伝えるとともに、倒産や失業、収入が著しく減少する人々に対する緊急支援策を策定してほしい。

 東京では、商店からマスクだけでなく、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、カップ麺、米などが品薄になっている。日本人がアトム(原子)のようにばらばらになってしまい、国も社会も信用できないので、自分の力で家族を守らなくてはならないという不安心理に駆られて買い占めに走っているのだ。

 在日米軍基地の過重負担を沖縄に押しつけても心が痛まない大多数の日本人の心理と共通する現象だ。このような状況で、沖縄人が団結して沖縄に住むすべての人々の生活を守ることが重要になる。

(作家・元外務省主任分析官)