豚熱ワクチン開始 課題や見通しは?


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 県内34年ぶりの豚熱(CSF)の発生から約2カ月がたち、沖縄本島全域を対象にした予防的ワクチン接種が6日に始まった。うるま市と沖縄市で計1万頭余の豚が殺処分される事態となる中で、本島北部や南部にもウイルスが広がることに戦々恐々としていた県内養豚農家は、感染防止の一つの節目を迎えたことに安堵(あんど)する。

 ただ、ワクチンは今後も継続して接種していく必要があり、長い取り組みになる。農家の衛生管理の改善、純粋種アグーの隔離などの課題も残されている。

 豚熱ウイルスは感染力が強く、1頭でも発症が見つかれば養豚場内の全ての豚を殺処分しなければならない。農家にとって経営の死活問題となる。ワクチンを接種すれば免疫がついて豚熱の発症を抑えられるため、農家は感染リスクにおびえなくてよくなる。

 沖縄は他府県に比べて養豚場同士の距離が近く、本島北部から中部にかけて生息する野生のイノシシを介して感染が広がる可能性も否定できないなどのリスクを考慮し、県はワクチン接種の判断に踏み切った。

 養豚農家は「ほっとした」と接種開始に胸をなで下ろし、「アフリカ豚熱(ASF)の侵入リスクもある。気を抜かないように農場スタッフと確認した」と気を引き締めた。

 一方で、ワクチン接種で農家が安心してしまい、家畜感染の防疫体制がおろそかにならないかという懸念もある。今回の豚熱の感染ルートを調べる中で、畜舎への病原菌の侵入を予防するため農家に求められる「飼養衛生管理基準」が徹底されていなかった課題が浮き彫りとなった。

 県獣医師会の工藤俊一会長は「ワクチン接種をしても抗体が付かない豚もいて、絶対に発症しないわけではない。飼養管理基準を守り、農家自ら防疫する自覚を持つことが大切だ」と強調した。

 アグーの一部についてはワクチンを接種せず離島に隔離する対策をとる。県は16日以降に既存の隔離施設がある久米島に移送する予定だ。当初は50頭を隔離する予定だったが、繁殖豚を隔離すると自身の農場の生産活動に支障が生じるといった慎重意見が農家からあり、移送する頭数を30頭に減らした。

 移送先でのアグーの管理者や維持費の調整は停滞している。関係者によると、移送にかかる費用や設備の整備費用は国が補助するが、アグーの餌代や管理者の給料などの負担先は明確に決まっていない。県は引き続き関係者と調整を進めている。