「差別の中に課題」意識を 奥田均氏(近畿大学人権問題研究所特任教授) 報告・人権啓発集会から


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奥田 均氏(近畿大学人権問題研究所特任教授)

 部落問題は、部落出身者とみなされた人々が今日もなお差別を受け続けている現代の社会問題だ。部落問題は単なる「江戸時代の身分制度の残りかす」ではない。明治維新で江戸時代の身分制度は解体された。結果として賤民階級の人たちも社会的立場に置かれることとなったが、制度が解体したからといって、人々の頭の中にある価値観や心がすっかり変わるわけではなかった。

 身分制度の解体と同時に、「富国強兵」「殖産興業」を担う人間の新たな社会的価値観が形成された。知識、富裕、健康という三つの価値観だ。一方で新たな社会的価値観の裏には、無知なる者、貧者なる者、病者(不潔なる環境)という社会階層が作られ、身分制度とは全く異なった、新たな近代の差別のまなざしが注がれ始めた。

 2016年12月に部落差別解消推進法が成立した。地方公共団体は部落差別の解消に関する施策を講じなければならないことや、部落差別解消のための教育啓発活動、実態調査を実施することなどが盛り込まれている。

 同法は、現在も部落差別が存在することを初めて法律で認知したが、市民には実感として共有されていない。被差別当事者の困り事や悩み、願いや要求を「それはあの人たちの問題だ」とやり過ごしてはいけない。「差別の現実に市民の人権の課題を発見する」という捉え方が求められている。

 差別や人権という問題は、私たちが豊かに生きることと表裏一体だ。

 その意味では、沖縄の基地問題は「沖縄の問題」として区切るのではなく、日本の縮図だと受け止める必要がある。沖縄は、日本は平和主義を徹底しきれているのかを本土に鋭く投げ掛け、日本という国の在り方を問うている。
 (差別・人権問題論)