新型コロナで経済危機 いま銀行が果たすべき役割とは…地銀3行のトップに聞く


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 経済に与える影響が深刻化する新型コロナウイルス感染症の対応を巡り、沖縄銀行の山城正保頭取、琉球銀行の川上康頭取、沖縄海邦銀行の上地英由頭取へのインタビューで、3氏ともに県内企業の資金繰り支援で地銀が果たす役割を強調した。16日に日銀が決めた追加の金融緩和策については「銀行経営を圧迫することは回避された」「財政出動も必要になる」などの指摘があった。(聞き手 沖田有吾)

資金繰りは徹底的に支援 琉球銀行・川上康頭取

急激な売り上げ減少に苦しむ県内企業支援へ意気込みを語る琉球銀行の川上康頭取

 ―新型コロナウイルス感染症の影響は。

 「琉銀独自のシミュレーションでは、観光入域客は130万人~330万人減少し、県内企業の売り上げ減少額としては楽観的な想定で795億円、悲観的な想定だと2800億円になるとみている。リーマンショックや東日本大震災よりも影響は大きい」

 ―県内経済の見通しは。

 「そもそも県内景気自体が日韓関係悪化やホテルの供給過剰問題などで、昨年末ごろから低下局面になっていた。そこにさらにコロナの影響が加わった。ウイルスの特効薬などができれば感染は終息して景気も回復するが、戻ったとしても以前のような景況感は感じられないと思う」

 ―地銀としてどう対応していくか。

 「県内企業の資金繰りを徹底的に支援していくのが使命だと思っている。セーフティーネット保証を含め新規融資の相談は時間がかかるので、既存の融資先に対する返済条件の変更に先行して取り組んでいる。元金据え置きなどの条件変更で時間を稼ぎ、新規融資を付けていくのが最善と考える。2月4日~3月10日に84件の条件変更を実行した。新規融資は相談中を含め134件で、既に実行したものもある。期末でもあるので、営業店には顧客を訪問して資金繰りをしっかり支えろと指導を徹底している。当然のことだが貸しはがしは一切しない」

 ―どのような業種に影響が出ているのか。

 「2月中旬に実施したヒアリングでは、600先を回って影響があるという回答が67%だった。現時点では比率はさらに上がっていると思う。宿泊や飲食、運輸、小売り、卸売りなど、幅広い業種が影響を受けている。雇用にも影響が出かねない。過去にないほど一気に落ち込んでいる」

 ―日本銀行の追加の金融緩和をどうみるか。

 「評価は難しい。ただ金融政策だけでは限界があるので、今後は財政出動なども必要になると思う」

 ―銀行経営への影響については。

 「資金繰り支援のために条件変更をすれば、債務者区分が下がって引当金は増える。コストが発生することも想定しているが、経営的にはあまり心配していない。地域企業あってこその銀行で、徹底的に支援するために今まで資本を積んできた。手数料など融資以外の収益を増やしてきたのもそのためだ。今こそ地銀の出番だと思っている」

独自の融資制度を創設 沖縄銀行・山城正保頭取

地域企業の支援について「スピーディーな対応が重要」と語る沖縄銀行の山城正保頭取

 ―新型コロナウイルス感染症の影響が広がっている。

 「沖縄観光コンベンションビューローの試算で、3~5月の入域観光客数は前年比で150万人減少し、観光消費額も1千億円減少すると推測される。観光立県として、他府県よりもダメージは一段と大きい。観光産業は裾野が広く、あらゆる業種に悪影響が広がりかねない。当行にも多くの企業から相談が寄せられている」

 ―対策として独自の融資を始めた。

 「公的な保証制度以外に、今月3日から法人を対象に運転資金として2億円を上限に融資を始めた。早ければ申し込みから数日で実行可能だ。12日からは個人事業主を対象に、2千万円以内の融資も開始している。特に観光産業で顕著だが、急激に落ち込んでいるのでスピーディーに対応することがとても重要だ。日ごろから取引先と信頼関係を築き、事業性評価をしているので緊急性のある資金ニーズにも迅速に対応できる」

 ―事態の収束をどう見通すか。

 「公共インフラや観光資源が破壊されたわけではない。日本だけでなく世界的に感染が終息に向かえば、観光客も増えて立ち直りはある程度早いのではないかと思う。ただ、それでも1年程度のタイムラグは出るだろう。いかに早く以前の水準に戻し、以前よりもさらに高い水準に押し上げるような支援をしていけるかが大事だ」

 ―地銀の役目をどう考えるか。

 「一過性のコロナ感染症で伝統的な企業が倒産に追い込まれることを防ぐ責務がある。一時的な苦境を乗り越えれば、需要が戻ることは間違いない。緊急の資金繰り融資や返済の猶予などをできる限りして、企業の存続を支援していく。地域の銀行の真価が問われている」

 ―金融機関の経営にとっての影響は。

 「運転資金の融資ニーズも出てくるので、融資ボリュームの目減りはそれほど大きくないと思う。場合によってはデフォルト(債務不履行)増加の恐れがあるが、目利き力を発揮し、事業性評価に力を入れればクリアできる」

 ―金融機関の貸しはがしを警戒する企業もいるが。

 「貸しはがしをする考えは全くない。地域にどれだけ貢献できるかが存在意義だ。今のように強い雨が降っている時には、企業に寄り添って傘を差すような支援をしていく。非金利価値の提供として、必要な時に必要な額を支援していく」

雇用を守る支援をする 沖縄海邦銀行・上地英由頭取
 

新型コロナウイルス感染症が経済に与える影響について語る沖縄海邦銀行の上地英由頭取

 ―新型コロナウイルス感染症の影響をどう見るか。

 「1月に県内で豚熱が発生し養豚事業者に影響が出ていた折で、ダブルパンチを受けた。那覇空港第2滑走路の利用開始など、沖縄にとって追い風が一層強まると思っていただけに、落ち込みも激しい。今月4日までに86件の相談が寄せられた。売り上げの減少は観光事業者だけでなく農林水産業や飲食店にも表れている。いつ終息するか分からず、出口が見えないことへの不安がある」

 ―先行きをどう見るか。

 「旅行に行くお金がないという状態ではなく、感染への不安から消費が抑えつけられている。観光をはじめ、沖縄経済のポテンシャルは以前より確実に高くなっているので、感染が終息さえすれば観光の回復は早い。県内企業はそのタイミングに合わせて準備をしておく必要がある」

 ―準備とは。

 「やはり雇用を維持しておくことだ。目の前の苦しさに負けて人を離すと、去った人は簡単には帰ってこない。コロナショックの前まで、沖縄は過去に経験したことのないほどの人手不足だった。いざ需要が復活した時に働く人がいないことは致命傷になる。県内大手など複数の企業が助成金を受けて休業させるなどしているのも、先を考えての戦略的な行動だろう」

 ―金融機関としてどう対応しているか。

 「全営業店に、顧客を訪問して助成金や国の支援資金などの情報を提供し、場合によっては顧客に同行して窓口に行くまでやるように指示している。相互銀行をDNAに持つ海銀として、困難な時に中小企業支援をすることは当然だ。地銀として危機の時に地方経済を支えないと存在する意味がない。われわれが負えるリスクの範囲内で、できる限りの支援をしていく」

 ―中小企業支援の重要性をどう考えるか。

 「県内企業のほとんどは中小企業。影響の第1波は企業に来るが、次の波は解雇や休業などの形で従業員に行く。何よりも中小企業の雇用を守るための支援をしていく覚悟だ。雇用が維持できなければ、消費や住宅ローンの返済などにも打撃が生じるだろう」

 ―日銀の追加金融緩和についてどう考えるか。

 「企業の資金繰り悪化の防止が図られる効果がある。政策金利の引き下げは、資金繰り支援で前線に立つ役割がある金融機関の経営を圧迫する副作用があるため見送ったと受け止めている」