辺野古関与取り消し訴訟 最高裁判決 判決理由(要旨)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
名護市辺野古の新基地建設の現場。仕切りの護岸を境に、写真手前は埋め立て区域2―1、奥は区域2=25日午前(沖縄ドローンプロジェクト提供)

 1 沖縄防衛局は、普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋め立てにつき、同県知事から公有水面埋立法42条1項の承認を受けていたが、事後に判明した事情等を理由に同承認が取り消された(本件埋立承認取消し)ことから、これを不服として国土交通大臣(被上告人)に対し行政不服審査法に基づく審査請求をしたところ、被上告人は、本件埋立承認取消しを取り消す旨の裁決(本件裁決)をした。本件は、沖縄県知事(上告人)が、本件裁決は違法な「国の関与」に当たると主張して、地方自治法251条の5第1項に基づき、本件裁決の取り消しを求める事案である。
 2(1)地方自治法251条の5第1項の訴えの対象は「国の関与」であるところ、同法245条3号括弧書きにより、審査請求に対する裁決は「国の関与」から除かれている。もっとも、行政不服審査法7条2項は、国の機関等がその「固有の資格」において相手方となる処分については、同法の規定は適用しない旨を規定しているため、そのような処分に対して審査請求がされ、これに対して裁決がされたとしても、当該裁決は、同法に基づく審査請求に対する裁決とはいえず、「国の関与」から除かれる裁決には当たらないというべきである。
 (2)所論は、公有水面埋立法42条1項に基づく埋め立ての承認(埋立承認)は国の機関がその「固有の資格」において相手方となる処分であるから、その取り消しである本件埋立承認取り消しも国の機関である沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となった処分というべきであるにもかかわらず、原審が、これを否定し、本件裁決は「国の関与」から除かれる裁決に当たるとして、本件訴えは不適法であると判断したことには、法令の解釈の誤りがあるというものである。
 3(1)ア 行政不服審査法7条2項は、国の機関等に対する処分のうち、国民の権利利益の救済等を図るという同法の目的に鑑みて同法の対象とするのになじまないものにつき、同法の規定を適用しないこととしているものと解される。このような同項の趣旨に照らすと、同項にいう「固有の資格」とは、一般私人が立ち得ないような立場をいうものと解するのが相当である。
 イ 行政不服審査法は、行政庁の処分に対する不服申立てに係る手続を規定するものであり、「固有の資格」は、国の機関等に対する処分がこの手続の対象となるか否かを決する基準であることからすれば、国の機関等が上記立場において相手方となる処分であるか否かの検討に当たっては、当該処分に係る規律のうち、当該処分に対する不服申立てにおいて審査の対象となるべきものに着目すべきである。
 埋め立て承認のような特定の事務または事業を実施するために受けるべき処分について、国の機関等が上記立場において相手方となるか否かは、当該事務または事業の実施主体が国の機関等に限られているか否か、また、限られていないとすれば、当該事務または事業を実施し得る地位の取得について、国の機関等が一般私人に優先するなど特別に取り扱われているか否か等を考慮して判断すべきである。
 そして国の機関等と一般私人のいずれについても、処分を受けて初めて当該事務または事業を適法に実施し得る地位を得ることができるものとされ、かつ、当該処分を受けるための処分要件その他の規律が実質的に異ならない場合には、処分の名称等について特例が設けられていたとしても、国の機関等が上記立場において当該処分の相手方となるものとはいえない。この点に関し、国の機関等と一般私人との間で、当該処分を受けた後の事務または事業の実施の過程等における監督その他の規律に差異があっても、当該処分に対する不服申立てにおいて直接そのような規律に基づいて審査がされるわけではないから、当該差異は上記の解釈を左右するものではない。
 (2)ア 公有水面埋立法は、公有水面の埋め立てにつき、その実施主体を限定することなく、国の機関と国以外の者のいずれも埋め立ての実施主体となり得るものとし、また、都道府県知事の処分である埋め立て承認または免許(埋立免許)を受けて初めて、埋め立てを適法に実施し得る地位を得ることができるものとしている。
 イ そして公有水面埋立法は、国の機関が受けるべき埋め立て承認について、出願手続、審査手続、免許基準等の埋立免許に係る諸規定を準用している。また、国の機関と国以外の者との間で同一区域における埋め立ての出願が競合する場合であっても、埋め立て承認の出願を埋立免許の出願に優先する仕組みは採られておらず、両者は所定の基準に従い同列に審査すべきものとされている。このように、埋め立て承認および埋立免許を受けるための手続きや要件等に差異は設けられておらず、これらの処分を受けるための処分要件その他の規律は実質的に異ならない。
 ウ 他方、公有水面埋立法は、埋め立て承認に基づく埋め立てについて、埋立免許に基づく埋め立てに係る規定のうち、免許料の徴収、工事の着手および竣功の義務、埋立権の譲渡および継承、竣功認可、違法行為の監督等に係る規定を準用していないが、これらは、埋立免許がされた後の埋め立ての実施の過程等を規律する規定であり、埋め立てを適法に実施し得る地位を得るための規律に実質的な差異があるとはいえない。
 エ 以上のとおり、埋め立ての事業については、国の機関と国以外の者のいずれについても、都道府県知事の処分(埋立承認または埋立免許)を受けて初めて当該事業を適法に実施し得ることができるものとされ、かつ、当該処分を受けるための規律が実質的に異ならないのであるから、処分の名称や当該事業の実施の過程等における規律に差異があることを考慮しても、国の機関が一般私人が立ち得ないような立場において埋立承認の相手方となるものとはいえない。
 従って、埋め立て承認は、国の機関が行政不服審査法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできない。
 4 埋め立て承認の取消しである本件埋め立て承認取消しについても、国の機関である沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となったものとはいえない。その旨の原審の判断は是認することができ、本件訴えを不適法として却下した原判決に所論の違法はない。よって本件上告を破棄する。