都民の不安と辺野古問題 個人主義強め 無関心に<佐藤優のウチナー評論>


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 東京の雰囲気が3月25日夜、小池百合子東京都知事が、〈このままでは「首都封鎖」になりかねない―。新型コロナウイルス感染者の急増を受け、東京都の小池百合子知事は「重大局面」との危機感を表明。26、27日の自宅勤務や週末の外出自粛を呼びかけた〉(3月25日「朝日新聞デジタル」)後、急速に変化している。

 端的に言って、東京都民の心理が不安定になっている。スーパーマーケットでは、パン、パスタ、パスタソース、ラーメン、カップ麺、肉類、菓子類などが品薄になっている。

 26日、筆者は取材が3件、国会での勉強会が1件、編集者との打ち合わせが2件あったが、いずれもキャンセルになった。何とも形容しがたい同調圧力にすべての人がさらされている。

 26日に県危機管理対策本部会議を開いた玉城デニー知事は、〈東京や大阪など大都市圏で感染が拡大していることを踏まえ「不要不急の県外への旅行についてはできるだけ自粛してほしい」と県民に呼び掛けた〉(27日本紙電子版)が、正しい判断と思う。東京はかなり緊張している。このような状況で、東京では一人ひとりが自分と家族の身を守るので頭がいっぱいという状態になっている。観光やショッピングを楽しめるような状況ではない。

 このような状況下、〈米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、県による埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相の裁決は違法だとして、県が裁決の取り消しを求めた「関与取り消し訴訟」で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は26日午後3時、県側の上告を棄却した。一般私人の権利・権益の救済を目的とした行政不服審査法を沖縄防衛局が「私人」と同じ立場で利用したことは違法ではないとした福岡高裁那覇支部の判決が確定し、県の敗訴となった〉(26日、本紙電子版)。

 このニュースは、全国紙でもテレビニュースでも報じられたが、扱いは小さい。また、政治家や記者に辺野古新基地建設問題について話そうとしても、取り合ってくれない。新型コロナウイルスによる感染が広がっていることで、頭がいっぱいで、在沖米軍専用施設の過重負担問題についてまで、考えが回らないというのが実態だ。

 新型コロナウイルスによる感染症が拡大するに従って、行政権が急速に拡大している。法的拘束力を持たない政府や東京都の要請であってもほとんどの人が忠実に従う。しかし、それは国民が政府を信頼しているからではない。その証拠に、政府が食料品やトイレットペーパーの品不足は起きないといくら呼び掛けても、政府の言うことを信じずに、多くの人が備蓄に走るので品薄になる。

 日本人は不安に駆られて、個人主義的傾向をますます強めている。そうなると辺野古新基地建設問題に関する日本人の関心がますます希薄になる。このような状況で、沖縄の運命は沖縄人自身で切り開くしかないという自覚を持つことが重要だ。東京に住む在外沖縄人の一人として、筆者も沖縄のために何ができるかを考えている。

(作家・元外務省主任分析官)