知識に加え考える力も 難関大へ複数合格に喜び〈言わせて大学入試改革〉


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木村 達哉

 僕は沖縄が大好きだ。おきなわ学びのネットワークというNPOを立ち上げ(理事長は興南高校の我喜屋優先生)、ボランティアの教育支援を行っている。今までたくさんの学校を訪れてきたが、初めて沖縄の学校から講演のご依頼をいただいたのはもう何年前のことだろう。

 その学校、昭和薬科大学附属高校の敷地に入ったとき、大好きな沖縄の学校で話ができる喜びに胸が高鳴ったのを昨日のことのように覚えている。

 今年はその昭和薬科大学附属高校から東京大学に6名の、また沖縄尚学高校からも1名の合格者が出たと報じられた。加えて、昨年訪問させていただき、生徒たちに授業をさせていただいた県立開邦高校から3名の生徒たちが現役で東京大学に合格したという知らせが届いた。もちろん生徒たちも努力したのであろうが、校長先生をはじめとする教職員の方々のご努力に敬服している。

 僕が勤める灘校からは毎年80名から90名の東大合格者が出ているが、単なる知識の詰め込みでは超難関と言われる大学に生徒を合格させることなど不可能である。知識だけでなく、知恵をしっかりと働かせ、考える力を涵養(かんよう)しなければ東京大学や京都大学をはじめとする旧帝大には合格させられない。

 「覚えろ覚えろ」の基礎段階と「考えろ考えろ」の応用段階とのリンクがあってはじめて合格させることができるのである。開邦高校を訪問させていただいたとき、校長先生が「なんとか東大に」とおっしゃっていたことを思い出し、合格者3名の知らせに我知れず目が潤んだ。

 沖縄の人たちほど自分の地域を愛している県民は他にないだろう。県内の大学を志望する高校生が圧倒的に多いと聞く。確かに沖縄は美しくて魅力的な場所だ。しかし、沖縄をさらに素晴らしい場所にするためには、県外から沖縄を支える人材が必要であると僕は考えている。

 兵庫県は1995年に大地震に見舞われた。が、2年後にはこれが本当に大地震の起こった場所なのかと目を疑うほどに復興を遂げた。兵庫県から東京大学に進み、政治家になったり官僚になったりする人材がたくさんいるのである。東京から故郷を支えてくれている人たちが多いのは、沖縄との大きな違いだと言えるだろう。

 沖縄県内の人たちが諸問題を解決するために努力を重ねているのは重々承知している。しかし若い人たちが県外の超難関大学に進み、社会的地位の高い人材となって故郷を支える側面もあるのだということも知っておかねばならないのではないだろうか。

(灘高校・中学校英語科教諭)

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 新大学入学共通テストが2021年1月に実施されるにあたり、2人の執筆者に交互に月1回、その背景や思いを執筆してもらう。次回は4月24日付で、東京大学元副学長の南風原朝和先生が執筆する。