「デビュー戦、ど派手に勝ちたい」修斗・畠山の闘志は消えない


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
スパーリングでパンチを打ち込む畠山隆称=3月4日、那覇市与儀のThe パラエストラ沖縄(ジャン松元撮影)

 総合格闘技の修斗でプロの道を歩み始めた畠山隆称(22歳、Theパラエストラ沖縄)が競技の再開に備えて地道な練習を続けている。昨年9月、神奈川県での全日本アマチュア選手権で優勝し、プロ資格と海外ジムで1年間、特待練習できる権利を得た。しかし、今月末に組まれていたプロデビュー戦は新型コロナウイルス感染拡大を受けて延期に。それでも「デビュー戦は一生で一度しかない。ど派手に勝ちたい」と闘志をかき立て続けている。

■勝利の味

 柔道をしていた兄の隆綺さんの影響で佐敷中時代は柔道部に入ったが、中学では一度も試合に勝てなかった。特に、3年最後の引退試合は部内でただ一人負けたことがショックだった。「このまま終わりたくない。せめて1勝して見返したい」と部を引退してすぐに格闘技ジムの「Theパラエストラ沖縄」の門をたたき、修斗を始めた。

 南風原高時代も、沖縄国際大入学後も試合では勝ちに恵まれなかった。「自分には才能がない」と悩む期間が長かったが、「1勝するまで絶対にやめない」と競技は続けた。大学2年生の夏、「今日はどんな風に負けるんだろう」という気持ちで挑んだ試合でとうとう勝ち星を挙げる。

 相手に馬乗りされたが、抜け出ることに成功し、すぐに右ストレートでダウンさせる。上からパウンドしてKO勝ち。場内が歓声で湧いた。レフェリーに右手を上げられた時、「信じられないほど気持ち良くて、もっと味わっていたかった」と初勝利に酔った。

畠山隆称(前列左から4人目)を囲み、海外での活躍へエールを送るジムの仲間たち=3月4日、那覇市与儀のThe パラエストラ沖縄(ジャン松元撮影)

■母への思い

 物心つく前に母の英子さんや兄、沖縄出身の祖父母と一緒に神奈川から南城市に移り住んだ。仕事のために関東に残った父はしばらくして音信不通になり、英子さんが家族を支えた。「朝早くから夜遅くまで働き、どんなに疲れていても家では一緒に遊んでくれた」と寂しさを感じたことはなかったという。

 英子さんは昔から、年末のビッグネームの対戦番組を楽しみにしている格闘技好き。修斗を始めた畠山は試合に招待するようになっていた。「誇りに思ってもらえるようになりたかった」。諦めずに勝利を求め続けた理由はそこにもあった。

 初勝利が自信となり、コンスタントに白星を挙げられるようになった。優勝すればプロの道が開かれる全日本アマチュア選手権が次第に目標となっていく。

 大学4年の昨年、初めて決勝に進んだ。膝関節を狙う相手をかわし、練習通りに三角締めでTKO勝ちした。知らせを受けた英子さんは跳び上がるようにして喜んでくれたという。「全て返しきれるとは思わないけど、少しは恩返しできたかな」と誇らしげだった。

■延期も前向きに

 4月26日のプロデビュー戦へ向けて放課後の子どもの面倒を見る学童支援員のアルバイトをしながら、週6日間のジムの練習で調子を上げていた。急きょ延期になり「めちゃくちゃ準備してたのに。言葉もない」と当初は大きく落胆した。

 格闘技団体「ONE」が運営するシンガポールのジム「Evolve」で練習できることになっているが、時期は未定のままだ。それでも、新技の研究などを始め、地道な練習で備える。「試合や海外での武者修行までの準備期間が延びただけ」と前向きに捉えている。「才能より努力だけでここまできた。諦めない」と再びスポットライトを浴びる日を待ち続ける。 (古川峻)