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学校の9月始業 短期で決断下る緊急事態<佐藤優のウチナー評論>


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 新型コロナウイルス禍が近未来に与える影響に関して、世界的ベストセラーになった『サピエンス全史』『ホモ・デウス』の著者であるイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏はこう述べている。

 〈選択を下す際には、目の前の脅威をどう乗り越えるかだけでなく、この嵐が去ればどんな世界に住むことになるかも自問すべきだ。新型コロナの嵐はやがて去り、人類は存続し、私たちの大部分もなお生きているだろう。だが、私たちはこれまでとは違う世界に暮らすことになる。/今回とった多くの短期的な緊急措置は、嵐が去った後も消えることはないだろう。緊急事態とはそういうものだ。緊急時には歴史的な決断でもあっという間に決まる。平時には何年もかけて検討するような決断がほんの数時間で下される〉(「日経新聞電子版」3月30日)。

 学校教育においても、平時にはかなり長い時間、検討しなくては不可能な変化が短時間で行われる可能性がある。具体的には、学校の始業を9月にするという変更だ。

 〈新型コロナウイルスの感染拡大による学校の休校措置が続いていることに関連し、萩生田光一文部科学相は28日の閣議後記者会見で、一部の知事や野党などから導入を求める声が高まっている「9月入学」への制度変更について、「考えていかなければならないテーマとしてさまざまなシミュレーションはしている。一つの大きな選択肢」と述べ、省内で検討していることを明らかにした。他省庁や業界団体とも水面下で意見交換をしており、「社会全体に影響を及ぼすものであり、文科省だけで解決する話ではない」と述べた〉(28日本紙電子版)。

 緊急事態宣言の期間は5月6日までだが、この時点までに新型コロナウイルスによる感染が終息するとは考えがたい。大多数の都道府県で学校の休校措置が延長されることになる。仮に一部地域では、対面による授業が可能になったとしても、そこで授業を再開すると、休校となっている地域との間でカリキュラムの消化状況が異なってくる。それは受験に影響を与える。

 このような事情を考えると、休校措置の解除は全国一斉が望ましい。オンラインを用いた遠隔授業で対応するという考え方もあるが、そのような条件で教育を行う環境が整っていないので非現実的だ。

 以前から、教育関係者の一部には、日本の学校の始業を欧米やロシアにあわせて9月にすべきという意見があった。一時期、東京大学が9月入学を検討したことがあったが、反発が強かったので断念した経緯がある。

 筆者は、沖縄の児童、生徒、学生の外国留学が容易になるという観点から、学校の始業を9月にするというのは、十分検討に値すると考える。読者の意見を聞かせてほしい。

(作家・元外務省主任分析官)