決算発表、コロナで記者会見やめる企業も 識者「説明回避の動き懸念」


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 県内各企業は19年度決算取りまとめの時期を迎えているが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、報道機関向けの決算発表の形が様変わりしている。沖縄銀行やリウボウグループ、イオン琉球は記者を集めた決算会見を開かず、マスコミへの資料提供とする方針を通知している。会見場への出席人数を制限して参加者の間隔を開けるといった感染防止対策を徹底して例年通り決算会見を実施する企業も多い。オンラインでの会見を初導入した事例もあり、各社とも従来とは違う取り組みを模索している。

 東京証券取引所1部上場の沖縄銀行は、東証に決算報告書を提出する13日に報道機関にも決算資料を提供する予定だが、例年は頭取が出席して行っている記者会見は取りやめるとしている。決算内容に対する各社からの質問に対しては、資料提供後に担当者が電話で対応する。

 同行が決算発表会見を中止するのは初とみられる。同行担当者は「感染拡大防止の観点から中止とした。報道機関の問い合わせには答えていく」と説明した。

 一方、同じく東証1部上場の琉球銀行は、会見場への参加者を各社1人とするなどの対応をとった上で例年通り決算発表する方針。地銀でも企業によって対応は分かれている。

 東京証券取引所は上場企業に対し、期末から原則45日以内の決算発表を求めている。決算開示にあたっての記者会見について、経済産業省は「決算発表の記者会見は法律上定められているものではなく、企業の判断で開かれている」との見解を示した。

 県内の主要企業は、上場企業に限らず、投資家や株主、顧客への丁寧な説明を目的として、自主的に記者会見を開いて決算状況を公表している。

 リウボウグループやイオン琉球も例年、県内報道機関向けに経営陣が出席した会見を開いているが、今年は沖銀と同様に、資料提供の対応とするとしている。

 一方、4月24日に決算発表を終えた沖縄セルラー電話は、マイクロソフト社の会議システム「teams」を使ってオンラインで記者会見を開いた。オンライン会見は同社としても今回が初めての試みで、県内企業でも前例はないとみられる。約1時間で、質問数に制限はなかった。

 沖縄電力、日本トランスオーシャン航空は4月30日にそれぞれ決算発表の記者会見を開催し、出席者を各社1人に制限し、会場の入り口で体温測定をするといった対応をとった。


<識者談話 澤康臣氏>企業に社会的責任

 新型コロナウイルス感染症の影響で、情報開示が少なくなっているのは深刻な問題だと思う。企業が責任を負う先は一つではない。直接的に株主や出資者、従業員、消費者に対して情報を公開する責任を負っている。さらに企業も社会を支える重要なプレーヤーであり、社会的な責任がある。組織の活動は社会の在り方に大きな影響を与えるため、一般市民に対しても広く情報を公表する姿勢が求められる。

 記者会見を開くのは単に報道機関への説明ではなく、社会に広く情報を公開する意味を持っている。今回は感染症の防止対策であっても、本来ならば対面式の記者会見を開いて一般市民に情報を公開する企業の責任がある。株主には説明するが「一般には説明する義務がない」とは言えないのではないか。感染症をきっかけとして、情報公開の面で良い変化、悪い変化が出てくると想定される。オンライン会見などの広がりによって、離れていても、企業側が説明しやすくなり積極的な情報開示が可能となるなどの良い面もある。逆に、対面式の記者会見と比べて、オンラインは情報量が限定され会場の雰囲気などが伝わりにくい面もある。さらに、今後もなし崩し的に情報開示や説明責任を回避する企業が出てくることが最も懸念される。

(専修大ジャーナリズム学科教授、ジャーナリズム論)