鉄棒のスペシャリスト・小浜廣仁 五輪延期は〝朗報〟けがの治療に専念【Reスタート・4】


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平行棒の上で両足を真っすぐに伸ばす小浜廣仁。基礎練習を中心にトレーニングを続ける=4月27日、愛媛県松山市の新田高校(本人提供)

 “鉄棒のスペシャリスト”と称される体操男子の小浜廣仁(26歳、興南高―九州共立大出、TEAMえひめ)にとって、東京五輪の延期は願ってもない朗報となった。昨秋に首のヘルニアを発症して以降、左半身の力が抜けるようになり、その症状が完治に至っていなかったためだ。一歩間違えれば大事故につながりかねない競技なだけに、代表選考に懸かる大会が本格化する春先は「ずっと不安な状態だった」と漏らした。

 症状が現れたのは昨年9月。競技中に「首に力が入りにくい」と痛みを感じた。その後は自然と回復へ向かったが、同11月、練習中に床で前方宙返りをした際、症状が悪化した。ヘルニアで神経が圧迫され、左肘や左膝まで力が抜けるようになった。

 MRI検査の結果、手術の必要はなかったが、週1回の炎症止めの注射や内服薬での治療を始めることになった。しかし症状は治まらない。万全の状態には程遠いまま今春、代表選考に関わる全日本個人総合選手権やNHK杯などの大会が差し迫っていた。

 新型コロナウイルスの感染拡大で大会の開催可否が不透明さを増す状況にあっても「試合がある前提で準備をする。結果が駄目でも仕方ない」と気丈に前を向いた。そんな中での延期決定の一報。「僕にとってはプラスになる。内心ほっとした」と胸をなで下ろした。

 ぽっかりと空いた1年という期間。「まずはしっかりけがを治す」と足元を見詰める。普段は強豪で知られる愛媛県松山市の新田高校で学生と一緒に週5日、1日6時間トレーニングするが、現在は休校中のため、1日4時間に時間を短縮して練習に臨む。今は基礎練習に多く時間を割き、けがの完治後は「技のレベルを上げていきたい」と先を見据えて力を蓄える。

 目標を「五輪団体での金メダル」に置き、代表入りに向けて全種目の安定感向上を目指す。

 特に注力するのは種目別の出場も見込む鉄棒だ。優勝した昨年の全日本種目別選手権決勝で14・766を獲得し、公式戦での最高点を更新したが、五輪に向けては世界大会の上位入賞に最低限必要な15点台を自らに課す。

 そのために挑むのが、Dスコア(演技価値点)に0・4が加点される屈伸コバチ、抱え込みコバチ、コールマンの3連続離れ技だ。

 公式戦で成功したことはないが「練習では既にできている」という。「あとは数をこなし、試合でも練習のように技ができるメンタルをつくる」。夢の舞台でダイナミックに宙を舞う瞬間を思い描き、自信を積み重ねていく。

(長嶺真輝)