芝・土、最高の状態維持 職人、黙々と管理作業 ピッチで選手活躍願い ルポ・グラウンドキーパー(上)


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地中の水分量を計測する謝敷宗幸さん=15日、沖縄市のタピック県総ひやごんスタジアム

 新型コロナウイルスの感染拡大によるスポーツイベントの中止や運用自体の停止で県内の運動施設は閑散としている。しかし、グラウンドに敷き詰められた芝や土は日差しや雨風にさらされ、日々状態が変化する“生き物”だ。管理に手を抜くことはできない。今、どのような状態なのか。グラウンドを訪ねた。歓声が響く試合時とは対照的に、静けさの中、「いつ選手たちが戻ってきてもいいように準備をするだけ」と、黙々と作業に汗を流す職人たちの姿があった。

■ほぼ毎日作業

 均一の長さに刈り込まれた緑が梅雨晴れの日差しによく映える。15日正午すぎ、サッカーJ2、FC琉球のホームであるタピック県総ひやごんスタジアム(沖縄市)。「リーグ再開時に最高の状態で使ってもらえるよう、ほぼ毎日作業をしている」。委託管理を請け負うのは本社が東京にある東洋グリーン社。同社の謝敷宗幸さん(37)が、日焼けした顔でルーティンワークの説明を始めた。

 FC琉球のホーム開幕戦が延期になり、約3カ月にわたり公式戦で使用されていない。通常のシーズン中は2週間に1回、リーグ戦があり、合間には陸上競技の大会も入る。2016年からグラウンドキーパーを担う謝敷さんは「使ってもらい、芝を直して、また使ってもらう。それがやりがい。今はどこを目指して仕上げればいいのか…」。事務所のカレンダーの予定欄には空白が目立つ。

 当然のことだが、芝は日々成長する。定期的に刈り込んだり、土をほぐしたりして太陽光や空気を供給し、土壌を活性化させて健康的な芝を保つ。リーグの再開後は日程がより過密になる可能性もあるため「それに耐えられる状態をつくる」と気持ちをたき付ける。

■例年と違う手順も

 今は「冬芝」から「夏芝」へ切り替える時期に当たる。急激に冬芝がなくなると密度が下がって耐久性が落ちるため、例年は6月ごろまでかけて少しずつ夏芝へ移行させていくが、今年は未使用の期間を利用して5月中に終える考えだ。例年とは異なる日程感となるだけに「日々見ていないと小さな変化が分からない」とより気を引き締める。普段は13~15ミリに保つ芝の長さを11ミリまで刈ることで、根に近い部分まで満遍なく太陽光を吸収させたり、水分量を細やかに調節したりと丹念に仕上げる。

芝刈り機の「乗用3連リールモア」でピッチの芝の長さを整えていく謝敷宗幸さん

 謝敷さんがおもむろに歩き出した。縦105メートル、横68メートルのピッチをほぼ1人で管理する。スプリンクラーやトラクターも使うが、くまなく歩き、芝が病気にかかっていないかなどをチェックして見て回るのも日課だ。「ボールの転がりに影響する」と手で雑草を抜き、ダメージが大きい部分は土ごと移し替える。

 手がかかるだけに、やりがいもひとしおのよう。みずみずしい緑が一面に広がるグラウンドを「自分の庭のようなもの」と慈しむように言う。日中の作業では頰を伝う大粒の汗をぬぐいつつ「チームや選手のために頑張りたい」。自らの技を頼みとする職人の心意気が淡々とした言葉に表れた。

 感染の落ち着きで使用再開への期待感もにわかに高まってきた。丹精込めたピッチの上で選手たちが再び激闘を演じる日を思い描く。はにかむように「今はやる気満々ですよ」と笑った。

(長嶺真輝)