北部、医療格差に悲鳴 医師、コロナ対策「装具も人も足りない」


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北部地域の発熱相談センターで問診する上地博之医師。本来なら午後は休診時間だがセンターで患者の対応に当たった=7日午後5時45分、名護市の県立北部病院

 名護市の県立北部病院。敷地内にある狭いコンテナは、新型コロナウイルスのPCR検査の依頼を受け付ける発熱相談センターとして使われている。体温計や飛沫(ひまつ)防止シールドなどの備品は北部看護学校や地域の病院から借りてきた。北部地区医師会の上地博之会長(66)がシールド越しに言う。「装具も医療従事者も絶対的に足りない。だからと言って『もうやめた』なんてできるわけがない」

 4月上旬、医師会に開業医からの相談が相次いでいた。「どこも対応してくれず発熱患者が病院にくる」「(感染防止の)装具もなく不安しかない」。新型コロナ感染を疑い、小さな診療所に駆け込む「未受診難民」が増えていた。地域の開業医に感染症に対する万全な準備はない。万が一、患者が感染していた場合、診療所は2週間の閉鎖を余儀なくされる。

 北部の医療施設は約60。開業医だけで220を超える中部や那覇と比べると圧倒的に少ない。1院でも閉鎖すると、他の診療所に患者が集中し悪循環が続く。「地域医療の崩壊は目の前まで来ている」。医師らは頭を悩ませていた。

 「細かい取り決めは後回し。とにかく始めよう」。感染者が増え続けた4月16日、北部地区医師会、北部保健所、県立北部病院の関係者らが集まり、発熱相談センターの設置を決めた。22日から医師らが毎日交代でセンターに座る。自院の診療所を閉めて対応に当たる医師もいる。全員が無償ボランティアとしてスタートした。上地さんは言う。「みんな、医師の誇りで動いているようなものだ」

 北部の感染症専用病床は2床、感染症専門医は1人のみ。北部で新型コロナ感染者は2人と爆発的な感染は起きていないが、医師に負担が集中する現状は続く。病床数を備えて複数の診療科を持つ「基幹病院」が北部にはない。最新機器を備えた病院がいくつもある那覇や中部と同じような医療態勢はなく、常に現場にしわ寄せがいく。「しっかりとした土台が築き上げられた病院が、たった一つあるだけでいいんです」

 6月7日投開票の県議選が迫る中、北部基幹病院の設置に向けた議論は止まったままだ。指導的立場になる習熟した医師が育つまで10年はかかる。「それを待ってる間に北部の医療は吹っ飛ぶ」。発熱相談センターを訪れる患者は、途切れることなく続いた。 (阪口彩子)