球児ら思い、整備に力 「気持ち良く使って」 気候に合わせこまめ調整 ルポ・グラウンドキーパー(下)


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グラウンドに球音が戻る日を心待ちにする宇根佳克さん=16日、沖縄市のコザしんきんスタジアム

 1カ月以上にわたり球音が遠ざかっているが、天然芝の緑と黒土のコントラストは鮮やかなままだ。両翼100メートル、中堅122メートルのコザしんきんスタジアム(沖縄市)。「また選手に気持ち良く使ってもらいたい」。指定管理を請け負うおきなわスポーツイノベーション協会で、内野の土の整備を担当する宇根佳克さん(39)が裏方としての気概をのぞかせる。

■休業解除、整備再開

 16日午後、宇根さんは台風対策で外野スタンドのネットを下げる作業に取り掛かっていた。「グラウンドを見ましょうか」。案内してもらい一塁側ベンチからグラウンドに出た。

 14日に県の休業要請が解除となり、作業も急に忙しくなった。14、15の両日にかぎ爪の付いたトラクターで堅くなった表土を掘り返し、ブラシで整地した後、ローラーで転圧。マウンドやバッターボックスはとんぼなどを使い、適度な高さと堅さにならした。

 しかしまだ十分ではない。宇根さんがグラウンドを歩き、地表を細かく確認し始めた。近くで見ると雨で土が流されて天然芝と黒土の境目に段差ができ、三塁側のファウルゾーンには水の通り道がついてしまっている。「これから土を補充したりして、細かく直していく」。使用再開のめどが立ち始め、徐々に仕事に張り合いも戻ってきた。

■日々勉強

 土の整備を担当して7年目。同スタジアムでキャンプを張る広島東洋カープのグラウンドキーパーが師匠代わり。「マウンドを堅くするために車のタイヤで転圧したりと、学ぶ事は多い」と今も勉強の日々だ。昨年11月には同じく黒土を使用する阪神甲子園球場を視察で訪れた。今後阪神の宜野座村キャンプの際、匠(たくみ)の技で名高い阪神園芸(兵庫県西宮市)の職人から直接ノウハウを学ぶ予定という。

整備専用のトラクターを使って内野の黒土をならす宇根佳克さん

 黒土は鹿児島県から仕入れ、保水性に優れる火山灰を主原料とした土と砂を7対3の割合で混ぜたものを敷く。沖縄の強い日差しや雨量を考慮し、保水性と排水性を両立する適度な配合という。雨が降ると土が流されるため、こまめに土の補充を繰り返す。試合前後には凹凸や芝部分との高低差をならし、けがやイレギュラーバウンドを防ぐ。

 大会時は多忙を極めるが「選手にも、スタンドの観客にも『いい球場』と思ってもらいたい」。腕一つで評価を得る仕事人のプライドが宇根さんを支える。コロナ禍で施設が利用されず「気持ちが上がらない」と落胆した時期もあったが、休校中で部活ができない学生たちがバットやグローブ片手にコザ運動公園内で自主練習に励む姿を見ると、力が湧く。「彼らを見るとムズムズする。球場で思い切り野球をやらせてあげたい」

 高校野球では夏の甲子園の開催が危ぶまれている。自身も元球児だ。「なんとか県大会だけでもやらせてあげてほしい」。スコアボードにチーム名がともり、試合開始を告げるサイレンが鳴り響き、選手たちがダイヤモンドへ駆け出していく―。その瞬間を心待ちにし、土と向き合い続ける。

(長嶺真輝)