「違う道を選ぶ人も」 収入減で沖縄芸能衰退危惧 沖芸連が緊急提言


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「音楽関連イベントの完全復活はまだ難しい」と話すサウンドエンジニアの森脇将太さん=14日

 県芸能関連協議会(沖芸連)は14日、文化芸能関係者の窮状の深まりを受けて県庁記者クラブで会見し、新型コロナウイルス感染症に関して、県に文化支援策を求める緊急提言を発表した。下山久常務理事・事務局長は会見で、沖縄の伝統芸能が、本土の歌舞伎などのような世襲制ではなく、幼い頃から芸の道に親しみ、自らその道に進むことを決めた人々が守ってきている現状に触れた。その上で「(沖縄の実演家の中に)芸能を諦めて職業を変えようとしている人もたくさんいる」と県の文化芸能の衰退に警鐘を鳴らす。

 下山常務理事が危惧する事態は、これまで芸能を中心に生活していた実演家の間でこそ現実味を帯びている。現在コンビニエンスストアでバイトをする40代の実演家の男性も、その1人だ。

 男性はこれまで国立劇場おきなわの自主公演をはじめとする舞台への出演料と、自身の三線教室や教育機関での芸能指導で生計を立てていた。中学1年から三線の研究所に通い磨いた歌声は定評があり、公演後に観客からも声を掛けられる。しかし、劇場の公演は軒並み中止になり、三線教室は休止、教育機関の再開も見込めず4月以後の収入のめどが立たなくなった。妻と子どもを食べさせるため4月に入り職を探し、すぐに入れたのがコンビニだった。いつ公演が再開してもいいように深夜の勤務を希望し、昼夜逆転の生活を送る。

沖芸連の緊急提言について会見する玉城節子副会長(左)と下山久常務理事・事務局長=14日、県庁

 舞台の中止に加え、生活リズムが変わり三線を手にする時間は目に見えて減った。男性自身は芸の道を歩み続けるとしながらも「舞台感覚がなくなることが怖い。20代、30代の世代は芸能に重きを置けず違う道を選ぶ人も出てくるのではないか」と話す。

 存続の危機は、裏方にも現れている。サウンドエンジニアとして、舞台の音響やプロデュースを手掛ける森脇将太さん(36)は4月から、ビーチの監視員を始めた。

 森脇さんは7年間音響会社で働いた後、5年前に独立し、以後音楽関係の仕事で生活してきた。しかし、2月に那覇市で自身がプロデュースする音楽イベントを終えた後、状況が一変した。3月から5月までの仕事が全てキャンセルになり、収入が激減した。6月以降も不透明な状況だ。現在は監視員の仕事とラジオ局の音響の仕事で生計を立てるが、月収はこれまでの半分にまで落ち込んだ。

 森脇さんは「音楽関連のイベントが完全に復活するのは、今年いっぱいでも難しいだろう。そもそも今お金が必要で、助成金を待っていられない」と話す。その上で「ミュージシャンでもある玉城デニー知事や、影響力のある県出身のアーティストが一致団結し、沖縄の音楽、エンタメ業界の再出発宣言をしてほしい。それが裏方業界の私たちにとって希望にもなる」と将来を見据えた支援策を求めた。
 (藤村謙吾)