【台湾に学ぶコロナ対策・上】SARS経験から法整備 情報を集積、解決向けIT駆使


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 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で、拡大を続けていた沖縄経済は一転して危機的状況に陥った。東アジアの中心に位置する地理的特性やリゾート性をうたってきた観光立県の復活を目指す上で、感染症の流行というグローバルなリスクにどう備えていくかが課題となる。初期対応の成功事例として評価を集める台湾のコロナ対策について、県産業振興公社台北事務所の仲本正尚所長に寄稿してもらう。

夜市の入り口で検温を実施するなど台湾各地で感染防止対策が取られている

 注目が集まる台湾のコロナウイルス対策について、台湾に駐在する立場から報告したい。台湾のコロナウイルス対応から参考になるポイントとして、「情報」「経験」「IT」の3点を紹介したい。

 台湾は早い段階で武漢に専門家を派遣するなど、独自に「情報」を収集しこれを政策に反映していった。

 収集した情報と分析によほどの自信がなければ、大胆な政策は打てないはずであり、台湾社会もこれを理解した。今回は、中国大陸で起きていることを中国語で理解できる優位性もあったと思うが、行政機関やマスコミ、個人を含め、社会全体の情報収集能力が高かったと思う。

観光地の混雑を表示するリアルタイム情報アプリ画面

 次に「経験」というのは、2002年から03年にかけてのSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験の活用である。台湾ではこの時の経験を踏まえ、防疫体制の強化や人材育成、違反時の罰則や医療物資の確保など関連する法整備を行っていた。これらの備えが今回の対応にまさに生かされていた。

 重要なのはこれから先の行動である。未知のウイルスへの対応やその中での経済活動について、日本は海外の成功事例を学び、これを的確かつ迅速に社会システムの中に組み込み、今後に生かすことが重要であろう。

 最後は「IT」である。台湾では、マスクを住民に広く行き渡る仕組みをいち早く導入し、最近では個人が自分の分のマスクを海外に寄付することまでできる。また、人の集まる観光地などの混雑状況をリアルタイムで管理し、誰でもスマートフォンで随時確認でき、機能や精度も徐々に改善している。

 これらの仕組みを実現しているのが先進的なITで、社会課題の迅速な解決に活用している。今後は新たな環境の中で、課題解決のスピードが一層問われるはずである。

 経済を再開する段階において、「3密」回避といった新たな環境への適応はどの産業でも課題であり、世界中で試行錯誤が当面は続くだろう。本県経済においては特に、リーディング産業でありエンジン役である観光産業の新たな環境への適応は簡単ではなさそうだ。

 このピンチを乗り越え、成長するチャンスとするためには、台湾に限らず海外の情報を収集し、柔軟に取り込んでいく必要がある。その際にはITの活用が不可欠だろう。

仲本正尚氏

(仲本正尚、県産業振興公社台北事務所)