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検察とメディア、癒着実態検証すべきだ<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 安倍政権に近いと言われている東京高検の黒川弘務検事長に関して深刻なスキャンダルが露見した。

 〈(21日発売の)週刊文春は、黒川氏が今月1日と13日、東京都内の産経新聞記者宅で、住人の記者や同僚記者、朝日新聞の元検察担当記者の計4人で賭け麻雀をした疑いがあると報じた。/朝日新聞社は50代の男性社員が参加していたことを認め「不要不急の外出を控えるよう呼び掛けられた状況下でもあり、極めて不適切な行為だ。金銭を賭けていたかどうかは調査中」と談話を出した。産経新聞社広報部は「取材過程で不適切な行為があった場合には、取材源秘匿の原則を守りつつ、社内規定にのっとって適切に対処する」とのコメントを出した〉(21日本紙)。本件に対して、与野党が黒川氏の辞任を求めている。

 情報源に深く食い込んで、人間的信頼関係を構築することは新聞記者の重要な仕事だ。その目的は、「国民の知る権利」に奉仕するためだ。ここで重要になるのは記者の倫理だ。検察官を含む官僚にとって、メディアは自らの業務を遂行する上で利用価値がある。官僚は記者と「外部に知られては困る」というような「共犯関係」を作り出すことで、メディアを操ろうとする。メディアとしても、このような「共犯関係」を官僚と作り出せば、情報が一層取りやすくなる。賭けマージャンは、官僚、記者の双方にとって、魅力的な道具なのである。

 官僚(国家公務員)が違法行為を行ってはいけないというのは当然のことだ。記者も取材にあたっては守らなくてはならない倫理基準がある。朝日新聞の場合、この社員は現在は記者ではないので、取材の必要でマージャンをしたという理屈も通らない。産経新聞も朝日新聞も組織防衛を始めている。社内調査で、記者や社員が賭けマージャンを行っていたという事実が判明すれば、当事者を処分し、その事実を発表するであろう。

 〈黒川氏が法務省の聞き取り調査に対し、賭けマージャンをしたことを認めたことがわかった〉(5月21日「朝日新聞デジタル」)。22日、黒川氏は辞意を表明した。しかし残された問題は極めて深刻だ。検察とメディアは構造的に癒着している。その結果、検察にとって都合が良い環境を醸成する役割をメディアが果たす。また、メディアは検察に協力することで特ダネを得る。その過程で疑惑の対象とされた人の人権が侵害され、国民の真実を知る権利が歪(ゆが)められる。黒川氏が辞職してもこの構造は変わらない。

 黒川氏以外にも賭けマージャンを記者を操る道具として用いている検察官はいると思う。この機会に、国民の真実を知る権利を保障するという観点から、検察とメディアの癒着の実態を検証する必要がある。

(作家・元外務省主任分析官)