国会提出の種苗法改正案 農家の自家採取、増殖の営みに制約 品種登録権利者へ許諾料発生も


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 通常国会に提出されている種苗法の改正案を巡り、種や苗の自由な栽培や売買が難しくなるという農業関係者の批判が起こっている。同法に基づいて種苗登録された品種(登録品種)について、権利者の許諾なしに農家が種や苗を増やすことができなくなり、県内では基幹作物であるサトウキビや菊、イモなどの生産品種に制限が出る。市民団体は沖縄にも関わる問題として「沖縄の大事な資源を守る独自の条例を県議会で作ってほしい」と訴える。

 農家は作物から種や苗を採って、繰り返し畑で育てる「自家採種」や「自家増殖」が認められている。種苗法が改正されれば、登録品種の自家採種や自家増殖が原則、禁じられる。それを行う場合には品種の開発者に許諾料を払わなければならない。

 政府は法改正について、日本の優秀な種や苗が海外に流出するのを防ぐのが目的と説明してきた。だが、自家増殖に制限を設けることで農家の経営に影響を与えるとの議論が広がり、多国籍企業が種を囲い込むという指摘もされている。女優の柴咲コウさんが法改正への懸念を発信するなど影響が広がり、政府与党は今国会での成立は見送る方向だとされている。

 サトウキビは多くの品種が種苗登録されており、春植えや夏植えに向けて農家自身で苗を増やすことに制限が出る。毎回許諾を受け、場合によっては許諾料を払う必要がある。

 ただ、サトウキビの登録品種のほとんどは県が開発している。県農林水産総務課は「品目にもよるが、許諾料は設けない方向で考えている」と述べ、農家に許諾料は求めないという対応方針を説明する。

 県糖業農産課も「制度上も金銭上も生産者の負担がないようにする」と強調する。種苗法が改正された場合には、許諾の手続きで農家の事務負担が増えないように、JAおきなわなどの団体がまとめて受けるような方向で調整を行っているという。

 ただ、国が2017年に制定した農業競争力強化支援法では、国や地方自治体が持つ「種苗の生産に関する知見」を民間企業に譲渡することを求めている。市民団体「日本の種子を守る会」アドバイザーの印鑰(いんやく)智哉さん(那覇市)は「公共の資材である種や苗が営利企業に移れば、数年後に確実に許諾料が上がり、農家経営に打撃が生じる」と警鐘を鳴らす。

 印鑰さんらは在来種の保全・活用や種子の独占を防ぐ地域独自の条例作りを求めており、「県はしっかりと遺伝資源を守り、島々への安定供給を図ってほしい」と話した。

(石井恵理菜)