離島、募る医療不安 コロナ感染なら体制維持困難に


この記事を書いた人 Avatar photo 宮里 努
医療体制の不安などを理由に来島中止要請を発表した久米島にある、久米島病院=久米島町

 「島内で感染者が出たとうわさになっている」。4月上旬の夜遅く、久米島町に住む男性から記者に電話があった。「小さな島だからすぐ感染が拡大するはずだ。不安で眠れない」。同町では現在までに新型コロナウイルスの感染は発生していないが、男性は「離島では本島並みの医療を受けられない。未知のウイルスへの対策がどこまで可能なのか」と動揺を隠さなかった。

 新型コロナ感染防止のため、久米島町は4月8日に来島の自粛、同28日に来島の中止を要請した。町はホームページで「感染者を安全に隔離できる病床が1床しかなく、通常の医療も提供できなくなる」と窮状を訴えるコメントを掲載した。粟国村や渡名喜村、南北大東村に座間味島など、離島の自治体は相次いで同様の要請を出した。新型コロナ感染症は、離島医療が抱える不安を浮き彫りにした。

 座間味村座間味区の又吉文江区長(65)は「持病のある人は島では暮らしづらい」と語る。容体が急変した場合など、本島までの搬送が必要になる可能性があるからだ。「自分が島にいると迷惑がかかる」と本島へ移る人もいるという。村内の60代男性は「島に住む以上、不便は仕方ないと言う人がいるが、それだと島は過疎化する。仕方ないの一言では済まない」と語気を強めた。

 離島医療の課題が放置され続けてきたわけではない。渡嘉敷診療所の山城啓太医師(32)は「(離島に)派遣される医師は研修プログラムを受けている。地理的要因で医療資源が限られるが、最近は船の欠航も事前に予測が立てやすい。薬の調達などで困ることは少ない」と説明する。しかし、新型コロナをきっかけに不安を抱くこともある。例えば島内で感染者が発生し、診察した医師が濃厚接触者となった場合だ。渡嘉敷に診療所は1カ所しかない。「島唯一の診療所を閉鎖することになったら、応援の医師が来るとしても島民に不安が広がる。常に気を張っている状態だ」

 地域医療振興協会理事で、与那国町診療所院長兼医師の崎原永作さん(66)は「地域と医療の信頼関係を感じる」と離島医療の魅力を語る。一方で「20~30年後に離島医療はどうなっているのか。どこに向かうのか誰も示せていない」と嘆く。

 崎原さんは、幅広い分野の初期診断ができる「総合医」を育成することが離島医療の維持に不可欠だと考える。総合医が初期の診察を行い、入院を要する2次医療、重篤な患者を診療する3次医療につなげることが重要とみている。崎原さんは「離島医療センター(仮称)を設立し、総合医を育てる仕組みが必要だ」と訴えた。
 (嘉数陽、金城実倫、照屋大哲)