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コロナ禍の経済対策 低所得者守る仕組みを<佐藤優のウチナー評論>


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 緊急事態宣言が解除されたが危機的状況は今後も続くであろう。緊急事態宣言下では感染拡大を抑え、医療崩壊を避けることが最大の目標だった。今後は、経済対策が主要な課題になる。今後の沖縄の経済政策を考える上で、JAL、カネボウなどの企業再建で実績を残した冨山和彦氏(経営共創基盤代表取締役CEO)の分析が参考になる。冨山氏は、新型コロナウイルスがもたらす経済危機が3段階になると予測する。

 第1段階が地域経済の危機だ。〈出入国制限はもちろん、外出規制までもがほとんどの国や地域でかかるなか、まず打撃を受けているのは、観光、宿泊、飲食、エンターティメント、(日配品、生活必需品以外の)小売、住宅関連などのローカルなサービス産業である。(中略)こうしたL(引用者注・ローカル)型産業群は今やわが国のGDPの約7割を占める基幹産業群である。しかもその多くが中堅、中小企業によって担われており、非正規社員やフリーターの多い産業でもある。今や日本の勤労者の約8割は中小企業の従業員または非正規雇用(裏返して言うといわゆる大企業大組織の正社員は全体の2割くらいしかいない)が占めており、ローカルなサービス産業の危機は非常に多くの、しかも弱い企業や労働者とその家族を厳しい状況に追い込むメガクライシスなのである〉(冨山和彦『コロナショック・サバイバル―日本経済復興計画』文藝春秋、2020年)

 ローカルな危機に続いて第2段階の地球規模の危機が到来する。自動車、電機などのグローバルな展開をする大企業のサプライチェーンが崩れるのみならず、住宅、衣料などでも世界的規模で買い控えが起きる。その結果、グローバル大企業のみならず、下請けの中小企業も大きな打撃を受ける。第2段階のグローバルな危機の到来までは不可避と冨山氏は考えているようだ。

 ここまでで危機を食い止めておかないと第3段階の金融危機が起きる。金融危機が起きると、〈経済システムの血液であるマネーを循環させる「心臓」までもがひどく傷んでしまい、これがさらに実体経済を痛めつける負の連鎖に入ってしまう〉。金融危機を防ぐためにあらゆる手を打つことが国と県に求められている。

 冨山氏は、〈国でも企業でも、こういう時は本気で守るべきものを明確にして優先順位をつけるべきである。今回の危機の大きさと特性を考えた時、私は守るべきものは二つ、「財産もなく収入もない人々の生活と人生」と「システムとしての経済」である。/緊急に作った緊急の対策としては、とにかく収入を失う低所得層に生活費を給付することは間違っていないし、中小サービス業が担っているローカル経済システムを守るために緊急融資だけでなく、給付金に踏み込んだのもこの際、正しいと思う。このセクターで無秩序に倒産、廃業、失業が起きた時に日本経済が中長期的に受けるダメージは、かなり大きいからだ。あとは実行段階で日本的な生真面目さ、精密さを捨て、多少の不正が起きることには目をつむってスピード最優先のオペレーションを行うことができれば、それなりの効果はあるはずだ〉と強調する。

 筆者も冨山氏と同じ認識だ。県と経済界が協力して、まず、「財産もなく収入もない人々の生活と人生」を守るためにできる限りの措置を迅速に行ってほしい。

(作家・元外務省主任分析官)