<新沖縄発展戦略を読みとく>空手や泡盛、ソフト面に価値を


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昨夏に県内で合宿を行い、地元の子どもたちと交流した空手のハンガリー代表選手(中央)=2019年8月31日、豊見城市の沖縄空手会館

 「沖縄はアジア・太平洋地域への玄関口として大きな潜在力を秘めており、日本に広がるフロンティアの一つとなっている」。2012年に閣議決定された政府の沖縄振興基本方針には、こう記された。新沖縄発展戦略はこの文言を引き合いに、沖縄が日本経済再生のフロントランナーに立つ可能性があると強調する。

 重視されているのが沖縄の歴史や文化、風土など、人を引きつける「ソフトパワー」だ。健康長寿や安全・安心、自然環境などのソフトパワーは先進国がさらに発展した社会に必要とされるとして、沖縄には大きなフロンティアがあると説く。

 スーパーシティ

 新たな施策展開の一つ「日本経済再生のフロントランナー」では、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータなどの技術があらゆる産業や社会生活に取り入れられる「沖縄型ソサエティー5・0」の実現を提唱する。

 そのため沖縄科学技術大学院大学(OIST)と連携し、米軍跡地などで最先端技術を実験する街「スーパーシティ」を設置することを求めた。OISTと産学官連携を図り、研究開発型スタートアップ企業の継続的な創出を図ることも提案した。

 効果的な規制緩和と同時に、持続可能な観光地を形成するためにローカルルールの制定も促す。新たなビジネスやイノベーションを生むために離島に国家戦略特区を設けて規制を緩和し、実験の場とする。

 同時に自然環境やビジネスの環境づくりなどを目的とした県独自のローカルルールの制定も効果的だとした。

 沖縄も今後人口減少に直面する。対策として、外国人人材の受け入れを検討するべきだとした。世界のウチナーンチュとの多元的ネットワークを活用するほか、他の自治体と比べて関わりが深い中国や台湾、米国と協力して人材の確保を進めることを提唱した。外国人から人材を受け入れて研修する「外国人労働力調整センター」の設置も挙げた。

 県土木建築部の下地正之参事監は、基地の跡地について「これまでの商業施設を核とした跡地利用のみならず、ITや健康医療、イノベーション、人材育成など多様な利用を推進したい」と話した。

 持続可能な観光

 「ソフトパワーを生かした持続可能な発展」はSDGs(持続可能な開発目標)の理念がふんだんに盛り込まれている。近年、観光客数の急激な増加に伴う「オーバーツーリズム」や観光公害が問題視されているため、「持続可能な観光(サスティナブル・ツーリズム)」への転換を求めた。そのためには、入域観光客数を優先する従来の観光政策ではなく、観光客1人当たりの消費を高める「量から質への転換」が必要だとした。

 その上で健康長寿や豊かな自然環境、伝統芸能、空手、泡盛、琉球料理など沖縄のソフトパワーを生かした付加価値の高いツーリズムを展開することを求めた。

 持続的な観光の視点に立ったクルーズ観光の在り方についても提言した。海外先進地では、クルーズ客の寄港によって得られる利益よりも地元が負担するコストの方が高かったとして、入域税の導入や規制を訴えた。

 このほか、海洋環境・資源に関わる課題を考えるための「海洋政策センター」の設置を国に提案することを求めた。沖縄近海で発見された海底熱水鉱床の利用・開発に地元自治体として関与・参画を図ることも必要とした。また多様な生物が生息する沖縄に「国立自然史博物館」の誘致やサンゴ礁保全の必要性も指摘した。

 富川盛武副知事は「沖縄の経済は今まで需要(サービスの買い手側)によって引っ張られてきたと言える。これからは需要ではなく、経済の筋力である技術進歩で発展する方向に展開しないといけない」と述べた。
 (梅田正覚)