賃金4割カット、大量退職…崩れるホテル雇用 関連産業に打撃拡大〈経済アングル2020〉


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 新型コロナウイルスの影響で稼働率が落ち込んでいる宿泊施設などで、従業員の勧奨退職や賃金カットが広がっている。人員余剰への対応として、客室清掃などを内製化して従業員の業務を維持するホテルも少なくない。だが、待遇の切り下げなどで観光に従事していくことへの不安が広がり、業務を外注してきた関連業者の雇用にも深刻な影響が出ている。観光現場を支える雇用が失われることに、関係者は「観光客の受け入れが再開したとしても、観光の担い手がいないという状況が起きる」と危機感を示す。

観光客の姿はなく、人もまばらな国際通り=5月11日

 給料4割カット

 那覇市内のシティーホテルに勤めて11年目となる女性は、月約16万円の基本給が5月から4割カットとなった。臨時休館していたホテルは6月から営業を再開したが、賃金カットは同じ割合で半年間続くと言い渡された。

 会社からは30人の退職者を出さないといけないと言われ、すでに退職の勧奨が始まっている。女性は会社からの慰留もありホテルにとどまることを決めたが、手元に残る給与は月々8万~9万円ほどで生活を維持するにはほど遠い。

 子どもを2人持つ女性は生活を守るためダブルワークを始めた。ホテル側が従業員の副業を認めるようになった。女性は「経営状況が厳しいのはよく分かるが、一方的な気がして納得できない人も多い」と肩を落とす。

 本島中部のリゾートホテルでは、繁忙期の夏場は1日に450人の人手が必要だったが、今は50~60人でも余るほどだという。

 2日までに、仕事の激減や先行きの不透明さを理由に約30人が退職した。

 これまで外部業者に委託していた客室清掃や施設管理は、全て自社で行っている。レストランが休館し、長年調理部門で働いてきた従業員を客室清掃などに回さなければならない状況もあり、それを理由に退職する人もいた。

 観光回復後には、外部業者への委託や新規雇用を元に戻す予定だが、同ホテル関係者は「仕事の勝手が分かる人でないと、すぐに即戦力で使えるわけではない。先行きの不安はもちろんある」と話した。

 固定費の負担

 労働集約型の宿泊業では、施設の維持費に加えて人件費が大きな負担となっている。

 400室規模で従業員230人を抱える那覇市内のホテルは、人件費だけで月4千万円以上の出費になる。宿泊者が3人の日もあるなど収入は無いに等しい。従業員の雇用を維持するため国の雇用調整助成金を活用して給料を支払っているが、それでも月1700万円は会社が負担しなければならない。

 ホテル関係者は「(施設を)閉めても地獄、開けても地獄。これからはもっと大変だ」とこぼした。

 りゅうぎん総合研究所の武田智夫調査研究部長は「観光客が回復した後の人手確保やサービスの質の維持を考えて、従業員を失うことによる将来的な懸念をホテル側も持っているが、経営を巡る現状の厳しさが勝っている。雇用を守るためにも行政的な支援が必要だ」と話した。

(中村優希)