赤字バス 統計では見えぬ暮らし、どう支援<6・7県議選 1票の現場から>6


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草木が生い茂った道路を走る路線バス=3日午後、糸満市真壁付近(喜瀬守昭撮影)

 両側はサトウキビ畑。狭く、車線のない道に入り、ぐんぐん進む。窓から見えるバス停に人影はなく、のどかな景色が続いた。

 バスターミナルがある糸満市の中心部から折り返し地点の糸満市喜屋武まで、所要時間は約40分。平日でこの日午後一便の乗客は2人だけ。病院帰りの70代男性は「車がないからバスに頼るしかない」とぼやく。路線バスは、暮らしを支える重要な存在だった。

 糸満市内を走る路線バス南部循環線は、民間バス会社が運行している。元々、赤字路線。国・県・糸満市の補助金で市の赤字路線を維持しているが、市の補助額も年々増加していた。2018年10月、平日20本から10本の減便に踏み切った。

 バス停前に貼られた県議選の立候補者ポスターを、近くに住む徳平タケさん(85)が見ていた。畑仕事の合間でクバ笠をかぶったまま。普段は自分で軽トラックを運転する。「バスも本数が減ってるわけさ。私たちは車持ってるから大丈夫だけど、いつまで運転できるかも分からんさあ」。県外で高齢ドライバーの事故が相次ぎ、運転は心配事の一つになった。

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 「バス路線の運行はありません。このバス停も利用できませんのでお知らせいたします。これまでご利用いただきありがとうございました」

 減便ではなく、廃線となった路線もある。糸満市国吉の白梅の塔へと続く道。真栄里のバス停に張り紙がされていた。廃線になったのは南部循環線の減便と同じ18年10月。路線は、小中学校の児童生徒も利用していた。廃線や減便を受け、市は午前9時から午後5時まで事前予約で市内全域を運行するデマンドバスを始めた。

 ただ、年間の行政負担額は、赤字路線が廃線・減便になっても、デマンドバスの導入・運行費用がかさみ、全体で約1300万円の増額と試算する。市にとって単純な損得の問題ではない。担当者は「財政負担がかさんでも、地域住民の暮らしを守るためのサービスを提供する必要がある」と話す。子どもたちや保護者の願いに応じた。

 南部地域は今、自家用車向けの道路整備が著しい。経済的に車を持つことができない住民や、運転ができない高齢者の声が置き去りにされていないか。数字の統計を分析するだけでは、見えてこない地域住民の暮らしがある。安定した公共交通を維持するために、自治体の工夫や現場を後押しする政治の在り方が求められている。
 (阪口彩子)
 (おわり)