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迷走するトランプ外交 振り回されず主体性を<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 トランプ米大統領の外交が迷走している。5月20日、トランプ氏は6月25日に米国の首都ワシントン郊外で先進7カ国首脳会議(G7サミット)を開催すると宣言した。しかし、ドイツのメルケル首相が新型コロナウイルスの感染が収束しておらず、時期尚早であるとして出席を辞退した。

 するとトランプ氏は、5月30日、移動中の飛行機の中で記者団に対して驚くべき発言を行った。〈トランプ米大統領は30日、6月末に首都ワシントンで通常開催を目指していた先進7カ国首脳会議(G7サミット)を、9月以降に延期すると明らかにした。G7の枠組みは「非常に時代遅れだ」と述べ、ロシアや韓国を招き拡大開催したい意向を示した。中国が議題になる見通しで、新型コロナウイルスを巡り対立する中国をけん制する狙い〉(5月31日本紙電子版)。

 1日、トランプ氏は、ロシアや韓国などの首脳に電話をかけて招待の意向を伝えた。韓国からは肯定的反応があった。〈韓国の文在寅大統領は1日夜、トランプ米大統領と電話会談し、トランプ氏が先進7カ国首脳会議(G7サミット)に韓国などを招待する意向を示したことについて「喜んで応じ、防疫と経済の両面で韓国ができる役割を果たしたい」と述べた。韓国大統領府が明らかにした〉(2日本紙電子版)。

 韓国がサミットのメンバーになると、会合で慰安婦問題、徴用工問題、竹島問題などを採り上げてくる可能性が高い。日本にとって面倒な状況が生じる。オーストラリア、インドの参加についても現在、アジアにおける唯一のG7メンバーであるという日本の地位が脅かされることになる。

 トランプ氏からの電話に対するロシアのプーチン大統領の反応については報じられていないが、筆者はプーチン氏がトランプ氏の提案を受け入れる可能性は低いとみている。なぜならサミット拡大構想の主たる目的は中国に対する包囲網を形成することだからだ。ロシアにとって西側諸国との関係改善という観点からすれば、サミットへの復帰には意味がある。しかし、その結果、友好国である中国との関係を著しく損ねるようなリスクをプーチン氏は取らない。

 迷走するトランプ外交に振り回されないようにする必要がある。対中包囲網という非現実的な目標を米国が追求した結果、沖縄が米中の軍事的緊張の最前線になる危険がある。それは絶対に避けたいシナリオだ。日本にとって米国は唯一の同盟国だ。日米同盟を基調としつつもロシア、中国ともバランスのとれた外交を展開する必要がある。

 県も独自に米国、中国、韓国、ロシアなどとの交流を進め、沖縄に対するこれら諸国の理解を深めるように働きかけてほしい。沖縄は日本外交の受動的客体ではない。外交政策に影響を与えることができる能動的主体であるという認識を持つ必要がある。沖縄には日本外交に影響を与える潜在力がある。この潜在力を顕在化することが玉城デニー知事の課題と思う。

(作家・元外務省主任分析官)