【晴読雨読】「沖縄島建築」(岡本尚文 監修・写真、普久原朝充 建築監修) 玉城デニー 幼少期のカジャ小触れる


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ
「沖縄島建築 建物と暮らしの記録と記憶」岡本浩文監修・写真、普久原朝充建築監修

 1959年(昭和34年)生まれの自分が幼かった頃は赤瓦やセメント瓦とトタン屋根の木造が多かった。まだ茅葺(かやぶ)きも残っていたがやがて姿を消していった。

 バーやレストランは外装やネオンがいかにもアメリカ風で音楽やメニューは子供心にも憧れがあったなぁ。本のページをめくる度にあの頃のいろいろなカジャ小(ぐゎー)(匂い)が甘くせつなくほんのりと浮かんでくるようだ。

 タイトルは「沖縄島建築」。建造物との関わりを通してこの島のひと・暮らし・文化などに触れながら刻まれてきた歴史と記憶を振り返っていく。

 「琉球王朝時代から続く味噌(みそ)屋」「戦前の暮らしが見える泡盛工場」「やがて百歳になる旧庁舎」「戦前唯一、沖縄第一号のホテル」「ゆんたくを愛するさしみ屋」「夢と希望と笑いの映画館」「世界一小さくて、懐の深い美術館」「与那原を見守る教会」「腕のいいメガネ店」「地元のアメリカンドライブイン」の個性的な10軒を紹介し家主や管理する方からの様々な想いが語られる。

玉城デニーさん

 人と建物と時代が織りなす「建物に投影された世相の記憶」であり読むほどに沁(し)みる。

 このほか、住宅の変遷と図解、含蓄を語るメモ、多彩な写真群とキャプションで紹介する県内各地の見どころなど今まで素通りしていた場所へとふり返らせてくれる。

 中でもコラムのページでおお!と見入ってしまったのが「花ブロック」を紹介するくだり。

 実は恥ずかしながら28年前に自宅を新築する際に、ベランダや屋敷囲いに風通しと景色の連続を切らせない意匠を凝らした穴あきのブロックを使いたいと拘(こだわ)ったことから、建築物と花ブロックの取り合わせを見るのが好きになってしまったからだ。

 沖縄の強烈な日差しに影と風を操る独創的なブロックはウチナーンチュの暮らしもモダンなスタイルに仕立ててくれた。アクセントとしてのみならず省エネの手法として現代建築からも求められているのである。

 社会の流れは生活と密接に絡んでいる。そこへ文化がつながり新しい技術もうまれる。そうしてこの島は自然や時代の風雨に耐えながらも次のまた新しい個性を育み、紡いでいくだろう。
 (トゥーヴァージンズ・税込み2090円) 

………………………………………………………………
 たまき・でにー 1959年、与那城村(現・うるま市)生まれ。ラジオパーソナリティー、沖縄市議会議員、衆議院議員を経て現在、沖縄県知事。