<新型コロナOISTによる洞察>8 沖縄の新たな未来 ハイテク発展へ学術機関と連携を


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ピーター・グルース氏

 新型コロナウイルス感染症(COVID19)の蔓延と今後も起こり得る感染者の急増を、世界は固唾を呑んで見守っています。

 このウイルスは人々の健康にとって破壊的なものであると同時に、世界経済をも危機に陥らせています。多くの国が前例のない不況に見舞われ、大変悲しいことに解雇や失業につながっています。米国では、ここ数週間で、4千万人以上が失業手当を申請しています。日本でも最大100万人の雇用損失が予測されています。

 サービス業、特に旅行・観光産業は大きな打撃を受けています。観光収入は、沖縄県のGDPの16%を占め、さらに間接的に10%ほどが観光によって支えられていると考えられます。沖縄県が経済基盤の拡大や多様化に向け、確固たる意志を持って踏み出し「新たな日常」を確立する必要性があります。

 さて、どのような代替案を検討できるでしょうか?

 COVID19のパンデミック(世界的流行)は、グローバル・サプライチェーンがいかに脆弱(ぜいじゃく)であるかを露呈しました。

 元米国財務長官のローレンス・サマーズ氏は「経済戦略では、短期的な商業的利益を重視せず、長期的な戦略的利益により大きな注意を払う必要がある」と述べています。サマーズ氏は変化や状況に対応するレジリエンスが必要であることを強調し、「中国など一国に商品を依存しないことが重要」と各国に助言しました。

 COVID19の蔓延は、新たなテクノロジーの急速な導入に拍車をかけるように見えます。ビデオ会議、仮想教室、遠隔医療や自動化がかつてないペースで成長・拡大しています。このこと自体は起業家に機会を創設するものです。しかしながら私がこの話をすると、多くの方が、日本の予算はすでに過剰に増大し、景気刺激策は借金に依存していることを指摘します。

 確かに、消費を賄うために資金を借りることは本来、持続可能な方法とはいえません。しかし、より高いリターンを得るよう投資が行われ、借金に対応できる方策を提供するならば、それは将来に向けてより前向きで持続可能な道を示すでしょう。

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 富川盛武副知事は「10年先を見据え、技術革新のために沖縄科学技術大学院大学(OIST)と協力して沖縄が自力で発展できるようにする必要がある」と語りました。

 県は、世界水準の観光業、航空関連産業クラスター、国際情報通信拠点、沖縄県とさらなる広域向けの新たなものづくり産業、沖縄とアジアを結ぶ国際競争力ある物流拠点という5つの重点戦略を提案しています。

 これらの重点戦略はすべて、COVID19以前に決定されたものです。今の状況を鑑みると、見直しが必要であることは明らかです。沖縄はハイテク産業を発展させることで産業基盤を広げることができます。OIST学長として、富川副知事の発言に心から同意しており、支援と提携を提供することも可能です。

 世界中で最も成功している創造的なハイテク集団を分析すると、そうした集団は、大学や研究所の近くに創設されたときに繁栄しています。最高の頭脳から生まれたアイデアを、イノベーションや最先端の製品に変換させることができるからです。

 OISTの強みは、学術機関であるというだけでなく、応用研究やスタートアップ企業を通じて優秀な人材が沖縄に来て働くことを引きつける磁石の役割を果たせる点です。OISTは今、沖縄県と恩納村と共に、キャンパスのすぐ北に、環境に配慮しながら設置するハイテク・イノベーションパークという将来計画について話し合っています。

 先進技術を用いたり開発し、世界で求められている持続可能な開発目標(SDGs)に貢献できるでしょう。この目標に向けスタートアップ企業の資金調達を支援するベンチャーキャピタルファンドについて投資家と話し合っています。米国における新規雇用の75%は、新規スタートアップ企業が生み出しています。十分な資金、献身、忍耐をもってすれば、新型コロナ危機は、沖縄に新たな機会をもたらすでしょう。OISTは、この機会が実を結べるよう参画することを心より望んでいます。

(ピーター・グルースOIST学長)