イージス配備計画中止 二重基準は沖縄差別だ<佐藤優のウチナー評論>


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 15日、河野太郎防衛相が記者団に対して陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると表明した。理由について河野氏は、迎撃ミサイルを打ち上げた際に切り離す推進装置「ブースター」の落下で住民の安全を確保するためにコストと時間がかかるからだと説明した。

 筆者が得た情報だと河野氏は12日に安倍晋三首相と菅義偉官房長官にイージス・アショアの配備計画を停止する意向を伝え、了承を得たが、どのように発表するかについて首相官邸と打ち合わせていなかったようだ。そのため河野氏の突然の発言で、一時、永田町(政界)と霞が関(官界)は騒然となった。特に自民党に対して事前の説明がまったくなかったために16日朝の自民党国防部会では、机をたたき、怒鳴る人もいて大荒れだったという。

 政府は、北朝鮮の弾道ミサイル対策として2017年12月にイージス・アショアの導入を決定し、19年5月、防衛省が陸上自衛隊の新屋演習場(秋田市)とむつみ演習場(山口県萩市)を配置の「適地」とする報告書をまとめた。しかし、秋田県に提出した報告書に誤りが発覚し、地元の反発が強まったため、防衛省は新屋への配備を諦め、東日本の新たな配備先を検討してるところだった。

 この問題に対して玉城デニー知事が即座に反応した。〈玉城デニー知事は16日午前、沖縄県庁で記者団に応じ、15日に公表された地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の秋田、山口両県への配備計画停止について「コストと期間を考えたら辺野古の方がより無駄な工事ではないか」と米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設を進める国の姿勢に改めて疑問を呈した〉(16日本紙電子版)。 政府は秋田県と山口県の利益を考慮し、技術的に欠陥のあるイージス・アショア配備計画を停止した。辺野古新基地建設も、マヨネーズ並みの軟弱地盤で埋め立てが技術的に困難で、沖縄県民の大多数が新基地建設に反対している。

 秋田と山口の民意に政府が応え、イージス・アショア配備計画を停止したのだから、沖縄の民意に応え辺野古新基地建設を中止することもできるはずだ。

 有識者の一部には、日本は米国に従属しているという見方があるが、今回のイージス・アショアの配備計画を中止した事実からも日本政府が米国の要請を拒否することは可能だ。

 河野防衛相は16日の記者会見で、〈「イージス・アショア」の配備計画を停止した理由としてコストや期間を挙げる一方、名護市辺野古の新基地建設については「唯一の選択肢」だと説明した。地上イージス同様、辺野古の工事も多額の予算や膨大な時間がかかるが、河野氏は「(米軍)普天間飛行場の危険性の一日も早い除去を考えるとしっかり工事を進めたい」とし、現行計画が合理的で見直す必要はないとの考えを示した〉(17日本紙電子版)。イージス・アショア配備計画中止と辺野古新基地建設の強行という河野防衛相の姿勢は二重基準で、不誠実だ。

 深刻なのは、沖縄以外のマスメディアがイージス・アショア配備計画中止と辺野古新基地建設問題を結びつけて考えていないことだ。軟弱地盤で埋め立てが技術的に困難であるにもかかわらず、辺野古の青い海の埋め立てを続け、沖縄の民意を無視し、基地建設を強行する政府の姿勢は、客観的に見て沖縄に対する差別政策である。

(作家・元外務省主任分析官)