戦後75年「体験者がいない時代にこそ“伝える力”が必要」 田上富久長崎市長インタビュー


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田上富久長崎市長(提供)

 23日の沖縄全戦没者追悼式にビデオメッセージを寄せる田上富久長崎市長に、沖縄との連携の意義や戦争体験継承の取り組み、新型コロナウイルスの影響と今後の平和発信の在り方についてメールで聞いた。

 ―戦後75年に長崎市、広島市、沖縄県が連携することの意義は。

 「私はよく長崎で、『被爆者がいる時代の終わり』と『被爆者がいない時代の始まり』が近づいている、と話します。戦後75年、被爆から75年たって、体験者がいなくなる時代が近づいているのをひしひしと感じるからです。戦争体験にしても、被爆体験にしても、体験者がいない時代にどう伝えていくかは、社会全体の大きなテーマです。そして、体験者がいない時代にこそ“伝え続ける力”が必要なのだと思います。体験者が少なくなる中での今年の連携が、これからの伝え方を一緒に考え、新しい手法を開発していく契機になればと思います」

 ―次世代継承のために取り組んでいることは。

 「体験のない世代が、体験者から話を聴いて伝えるという、新しい形の証言活動を始めています。それを通じて、体験は共有できなくても平和への思いは共有できる、と感じています。以前、若い人と話している時に『結論を押し付けるのではなく、事実を教えてほしい。あとは自分たちで考えたい』という意見がありました。実際、ここ数年の若い人たちの動きは想像を上回るものがあります。今は伝え方も、SNSをはじめ多様化しています。体験者や大人世代と若い世代が連携することで、これからの時代に有効な新しい伝え方を見つけることができるのではないかと思います」

 ―新型コロナ禍の平和発信をどう考えるか。

 「新型コロナウイルスと同じように、地球温暖化も、核兵器も、私たち一人一人が問題に直面する“当事者”という点は共通です。でも、なかなか当事者意識を持つことが難しい。そういう意味では、若い世代が新型コロナによって不便な暮らしを体験し、自らの行動が社会を良くすることにつながる体験をした今は、戦争や核兵器廃絶に向けても“当事者”として考え始めるチャンスだと捉えています。その契機となるような平和発信ができればと思います。コロナ禍で浮き彫りになった『分断ではなく連帯の方向に進もう』というメッセージも重要です」
 (聞き手・座波幸代)