【記者解説】今年の平和宣言は? 新基地建設反対かすむ 対話重視の「デニー色」 沖縄全戦没者追悼式


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沖縄全戦没者追悼式で、献花に向かう玉城デニー知事=23日午後、糸満市の平和祈念公園

 戦後75年の沖縄全戦没者追悼式は、新型コロナウイルスの影響で参列者の規模を縮小し、安倍晋三首相ら政府関係者が参加しない「異例」の開催となった。就任後2回目となる玉城デニー知事の平和宣言は、名護市辺野古の新基地建設断念や基地の負担軽減を政府に求める表現がなく、「政治的な訴え」は昨年よりトーンダウンした。一方で被爆地の広島市や長崎市と連携して核兵器廃絶の訴えや国連のSDGs(持続可能な開発目標)などを掲げ、対話や国際協調を強調する「デニー色」を強めた。

 宣言は「私たち」「今を生きる我々世代」という主語を用い、沖縄から平和構築のために何ができるか、知事自身や県民の主体性を意識した「未来志向」の表現が増えた。被爆体験を後世に伝え、世界平和を訴える広島、長崎との連携も初めての取り組みだ。

 一方、多くの共通点がある広島と長崎との決定的な違いがある。戦争をきっかけに造られた米軍基地が戦後75年たつ今もなお、沖縄の地にあり続けるという点だ。

 知事は宣言で「沖縄戦で得た教訓を正しく次世代に伝え、平和を希求する『沖縄のこころ・チムグクル』を世界に発信、共有する」と呼び掛けたが、沖縄戦から地続きで解決しないままの米軍基地問題に踏み込まないのは、焦点がぼやけてしまった印象も拭えない。

 一方、安倍晋三首相はビデオメッセージで「私たちが享受している平和と繁栄は、沖縄の方々の筆舌に尽くしがたい苦しみ、苦難の歴史の上にあることを、私たちは決して忘れない」「引き続き、『できることは全て行う』との方針の下、沖縄の基地負担軽減に全力を尽くす」と述べた。

 平和の礎で75年前に命を奪われた家族の名前をなぞり、非戦の思いを誓う沖縄の人々は、これらが空虚な言葉であることを見抜いている。
 (座波幸代)