<新型コロナOISTによる洞察>9 県民の生活守るには ツール活用し景気回復


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ピーター・グルース氏

 沖縄では5月1日以降、新たな新型コロナウイルス感染例は1例もありません。7週間以上連続で陽性患者が出ていないということは、県内ではウイルス無しの生活ができていると考えてよいでしょう。

 マスクを着用したり、社会的距離を維持したり、政府推奨の対策を採用したりなど、日本の社会慣習や人々の真摯(しんし)な取り組みが比較的穏やかな結果をもたらしてくれたことを幸いに思います。

 沖縄では、これまでわずか142件の感染例しか記録されませんでした。しかし経済は大きな打撃を受けました。サービス業、特に観光産業は大規模な雇用喪失と深刻なGDP減少に見舞われました。ホテルやレストランは閉鎖されるか、長期間にわたって部分的に営業を縮小せざるを得ない状態となりました。観光地からは人がいなくなり、タクシー、レンタカー、貸し切りバスなど交通機関への影響も大きくなっています。

 私たちが直面している課題は、新型コロナウイルスから県民を守ることと、雇用と景気を守ることのバランスを見い出すことです。

 これにはジレンマもあります。旅行業界を活性化するためには、訪問者を歓迎する必要がありますが、訪問者の中にはウイルス保有者が潜んでいる可能性も認識した上で誘致しなければなりません。

 県越境自粛要請解除の決定は、新型コロナウイルスが再び沖縄に流入する可能性を高め、それにより感染第2波のリスクが生じます。ですから、旅行者がウイルスに感染していないかどうか確認し、陽性と診断された場合は迅速に隔離されるようにできる限りのことを行う必要があります。

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 そこで私は、沖縄を訪れるすべての人々にPCR検査を受けてもらうことを提案します。検査では、微量のウイルスも検出できます。理想的には、検査キットは旅行者自身が機内や船内、もしくは空港や港で購入することが望ましいでしょう。費用は3~4千円ほどです。到着次第、空港や港で、旅行者から検査キットを回収し検査に回します。

 昨年度、沖縄には国内から毎日平均1万9千人の旅行者が訪問しました。今年はその約4分の1だと想定すると、沖縄では4750人の訪問者に対する日々の検査が必要となります。県内病院やクリニックだけでなく、沖縄科学技術大学院大学(OIST)も協力することで日々の必要検査数がまかなえるでしょう。

 さらに、沖縄に来るすべての旅行者には社会的距離を厳守し、沖縄到着の初日はマスクを着用して過ごしてもらいます。この間、旅行者にはテキストメッセージまたはスマートフォンアプリを介し、検査結果が通知されます。圧倒的多数は陰性となるでしょう。陽性と判定された少数の人々に対しては、直ちに隔離措置を講じます。ホテルなどの施設にとっても、感染者の判明は、他のお客さんへの感染を防ぐために意味があります。

 日本政府は現在、新型コロナウイルスに感染した人と接触した可能性がある場合に通知を受けることができる新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の使用を推奨しています。

 私たち皆がこのアプリを使用するように奨励する必要があると考えます。COCOAは個人のプライバシーを損なわず、個人データが適切に保護されるよう注意深く開発されています。この技術は、感染者の近くにいた人々の迅速な追跡に役立ち、感染者と密接な接触があった人に通知が届きます。COCOAの使用で、できるだけ早く警告を受け、隔離対策を取り、再検査ができます。

 PCR検査とCOCOAを組み合わせることで、沖縄県民が可能な限り高いレベルの安心と安全を得ると同時に、沖縄への訪問者数を再び増やし、経済に息吹を吹き込む道が開かれるでしょう。

 繰り返しますが、検査費用は旅行者が負担する必要があるでしょう。それでも費用負担による訪問者数へのマイナスの影響は、ウイルスの第2波が起き、沖縄に再び制限やロックダウンが生じてしまう事態よりも、県経済と雇用市場へのリスクは低いと考えます。

(おわり)